勢いに押されて了承したあと、俺は誓約書にサインを済ませ、平形さんに言われるがまま目隠しをされた。先の見えない恐怖でうろうろする俺を優しく誘導してくれる平形さんに身を預け、車で移動したあと、どこかの部屋へと連れられる。目隠しが外され、なんだか既視感を覚える光の眩しさに目が慣れると、そこは高級なマンションの一室のようだった。
「セイさまにはこれよりひと月の間、ここで主人に軟禁されて頂きます。とはいえ軟禁ですので拘束は致しませんが、外部との連絡を絶たせて頂きます。他にも詳しい規則はございますが、一つだけ、これだけは絶対にお守りください」
「? なんですか?」
光の眩しさに若干疲れている俺に、隣に立つ平形さんが表情を消してこちらを見る。
「主人にお会いするとき、セイさまには目隠しを致します。が、決してそれを外してはいけません。これだけは絶対にお守りください。よろしいですね?」
「……はい、分かりました」
紳士的な態度ではあるが、強面な容姿の平形さんが無表情で語る姿は気迫がある。怖気ついた訳ではないが、栄二に会うためにも俺は素直に頷いた。それを見た平形さんはパッと微笑み、「お腹が空いたでしょう? 夕飯にしましょう。それともお風呂にいたしますか?」と、まるで新妻のようなそれを言うものだから、俺は思わず笑ってしまうのであった。
そうして始まった軟禁生活だが、意外にもそれは快適なものだった。
外部との接触を禁じるとされたがテレビを見ることはできるし、部屋にはカレンダーもある。備え付けの冷蔵庫には常に新鮮な食糧が保存され、棚の中には外国産のお菓子まで用意されている。最新型のゲームやソフトもあり、文庫本や漫画までずらりと並び、むしろここは天国か?
夕方十八時きっかり現れる平形さんがプロ顔負けの料理を作ってくれるし、朝八時きっちり出かけるまでに洗濯や掃除までしてくれるのだから、やはりここは天国か?
なにより、軟禁されてから早三日。俺は俺を軟禁する主人とやらに、会ったことがなかった。
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