「栄二は、栄二は今どこにいるんですか!? 軟禁って、まだされてる訳じゃないですよねっ? 栄二は、栄二はちゃんと、ちゃんと……っ!」
「落ち着いてくださいませ。私が栄二さまのお世話をさせて頂いたのはもう二年も前になりますが、彼は主人から色々と学び、今も健やかにお過ごしだとお聞きしております」
迫る俺に動じることなく、ゆっくりと丁寧に話す平形さんは優しく微笑む。そんな彼の口から健やかに過ごしていると聞いた瞬間、膝から力が消え、俺は椅子の上へ崩れ落ちた。止めどなく溢れ出る疲労感がじわじわ迫り上がると同時に、どうしようもなく泣きたくなる。
「……そう、ですか……元気に、してるんですね…………良かっ、た……っ」
はぁー、と大きく息を吐きだし、目を強く瞑って拳を握る。あぁ、どうやら俺は自分が思っている以上に、出来のいい弟が大事だったらしい。元気で過ごしているのなら、それでいい。どこかで生きてくれているのなら、まだ希望が持てる。なんで消えたんだよって、ちゃんと叱ることができる。
頬に伝う滴に気づき、慌ててそれを拭う。一度鼻をすすってから、俺は微笑みを向ける平形さんへ向き直った。
「あの、栄二に会うことはできますか?」
それまで微笑んでいた平形さんは、しかし目を伏せ首を横へと振った。
「申し訳ありません。それを叶えることができる権限が私には御座いません」
「……そう、ですか……」
「一正さま、そのことも含めまして、主人に軟禁されることを了承頂けませんか?」
「え?」
茫然と平形さんを見る俺に、彼はくすりと微笑む。
「主人ならばひと月後、栄二さまとの面会の場を設けてくださることでしょう。ですから一正さま、どうぞ了承くださいませ」
「え? や、でも……俺、軟禁なんて……」
「ご安心ください。主人は他の方々と違って非道なことは致しません。とはいえ色々と制限は設けさせて頂きますが、決して一正さまが嫌うことは致しません」
「あ、いや……でも」
「栄二さまにお会いできるチャンスを逃しになるのですか?」
「…………」
「一正さま」
「…………セイ、で良いです。一正って、言いにくい……でしょう?」
なんだか押されてしまった気もするが、そう言う俺に平形さんは安心したように微笑むのであった。
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