食らわば皿まで - 4



「お前って時々……いや、すげー酷だよな。でもそういうとこも好きだよ、俺は」

「? ありがとう?」

「どーいたしまして」


なんだか神妙な面持ちで、若干頬を赤らめて微笑む友人の姿は正直気持ちが悪い。どこに照れる要素があったのか。まぁ、いいのだけど。
早速ママンに電話している友人が途中で「今日はビーフシチューだとよ」と小声で笑いかけてくる。それに満面な笑みを向けると友人はまた、頬を赤らめていた。なんなのお前。


「……何してんだ、古滝」

「?」


そんな友人の背中を見ながら食べ終えたアイスのゴミをいそいそ片づけていると、目の前に美男美女のカップルが立っていた。美女の方はニヤニヤと笑ってこちらを見ていたが、美男は茫然と俺だけを見つめている。


「どなたです?」

「は?」

「すみません、いきなり苗字を呼ぶってことは同級生でした? わぁ、すみません。俺、人の名前とか覚えられねー性質なんです」

「……は?」


茫然としていた美男の顔色にどんどん青みが増す。驚いているというよりも、これは怒っている表情だろうか。はて、どこに怒られる要素があったのか。


「なにその冗談……笑えねぇー」

「? 笑うとこありました?」

「ぶふっ!」


笑えないと言う美男に至って真面目な質問をする俺の横で、電話を終えた友人が噴き出した。止めろよお前、そんなんだから残念なイケメンって言われるんだぞ、俺に。


「諏訪、残念だけどそもそも成立してなかったみたいだな? こいつ、俺の名前しか覚えてねーんだと」

「……てめぇ、浜津」

「怖い顔すんなよ、みんなの諏訪くん。可愛い彼女とどうぞお幸せに」


気持ちの悪い笑み全開な友人に今度は俺がドン引きだ。なのに美女、どうしてお前は友人を見て頬を染める。
これだから食文化の違う人間の価値観は……。はぁ、ママンのビーフシチューが早く食べたい。




 


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