それが嬉しくて、俺は笑ってしまう。
「江藤先輩って、いい人ですね」
「は?」
そのまま思ったことを口にすれば、あっけに取られたような顔をした彼が目を丸くする。
「だってそうでしょ? この前も俺の頼み聞いてくれたし、今だって、兄貴のことを気にせず普通に接してくれてる」
「……」
「俺、江藤先輩みたいな先輩、ずっと欲しかったんです。だからなんかそれが叶ったみたいで、ちょっと幸せ」
照れ隠しで肩をすくめながらそう言えば、江藤先輩はしばらく黙ったままで、かと思えばおもむろに微笑み、俺の額にデコピンを一発。
「無防備すぎ」
楽しそうな、嬉しそうな、だけど少し恥ずかしそうな、そんな笑みと声に、俺はまた笑ってしまった。
あぁ、なんだか今日は幸せな日だな。そんなジジくさいことを思いつつ、まだ残っているオムライスに胸を弾ませる。
そうして出場する競技が終わった俺たちは、優勝など気にすることなく談笑しつづけた。
主に雄樹のアホトークにみんなが突っ込みと笑いを入れていたような気もするが。
最後の閉会式になって俺たちのチームが優勝したのだと聞いたが興味はなく、どこかの父親のようにカメラと脚立を抱えた仁さんとカシストへ向かえば、なぜか江藤先輩までついてきた。
「は? こいつデスリカんとこのオーナーの弟だぞ?」
「……は?」
そんな疑問を残しつつカシストでお疲れ会を開いていた中、俺の疑問に答えてくれた仁さんの口から出てきた言葉は意外なものでしかなかった。
ゆっくりと江藤先輩のほうをみれば、涼しい顔で頼んだ酒を飲んでいる。
「え、え、なにそれ」
「あれ? トラちゃん知らなかったのー? 知ってると思ってたー」
「知らねぇよ! 知ってたら大人しくしてたわ!」
「えー? なんで大人しくすんのー? 意味分かんなーい」
アホな雄樹は放っておいて、俺は江藤先輩のほうに深々と頭を下げる。
「いつも兄がお世話になってます」
「……ぶっ」
当たり前だと思っていた挨拶をすれば、なぜか俺以外の全員が噴き出した。
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