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「今はまだ高校生だし、バイトしかできねぇけど。いくら時間がかかるかも、正直分からないけど、でも、玲央の元から早く巣立って、一人前になる」


そのときこそ、俺は――


「玲央に、謝罪をさせるために一人前になるんです」


きっと、はじめて胸を張れるんだ。

そう言い終え、仁さんと雄樹を見れば、二人は目を丸くしたまま口も開けて固まっていた。
アホな雄樹のアホ面は毎度のことだが、仁さんのアホ面なんか初めてだから、笑いそうになってしまう。


「……トラちゃんって、馬鹿だよね」

「……本当、どこからそんな考えできんの、お前」


え?
アホ面の二人から意味の分からないことを言われ、俺までアホ面になってしまう。
なにかおかしなことでも言ったのだろうか?


「はー……ま、安心しろよ。なにもお前と玲央を引き離そうってわけじゃねぇ。ただな、お前がやばい状態だったら、まぁ、殴るくらいはしてたかもな」

「俺を!?」

「玲央を、だ!」


仁さんの言葉に思わず突っ込んでしまえば、なぜか額にデコピンを食らう。地味に痛い。


「あー……ね、トラちゃん、ごめん。俺、色々ひどいこと言った」

「あ? 安心しろ、お前はいつものことだ」

「がーん! トラちゃんひどーい!」


ケラケラ。雄樹がいつものように笑う。その姿に力が抜けて、俺はオレンジ色の頭を撫でてやる。よしよし、お前はアホだな。アホでいろ、雄樹。


「ねぇトラちゃん、俺、トラちゃんが嫌ならデリバリーやる。そしたらトラちゃん、もっと笑ってくれる?」

「ばぁか。もう平気だよ、兄貴がいたって大丈夫。殴り返すことはできないけどさ、ちゃんと自分の足でここに帰ってくる」

「……でもさっきまで抱えられてたじゃん」

「いいか、雄樹。人は失敗してこそでかくなれる。誰かが言ってた」


受け売りかよ! 雄樹の突っ込みがビシリと入るが、それでも今の俺はなんでも許せる気分だった。
きっと、安心しているのだと思う。

兄貴にバレてしまった時点で、俺はひどく殴られ、外界と遮断されると思っていた。
むしろ兄貴が俺に暴力をふるい続けていたのなら、日常的に暴力を受けていることが社会にばれ、唯一の血縁者と離ればなれになると思っていたのだ。

でも、現実は違った。俺はカシストにいて、隣には雄樹がいて、それを見守ってくれる仁さんだっている。
デスリカにいけば隆二さんだっているし……兄貴だっている。

それがどんなことをも笑って許せるくらい、心地がよかった。




 


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