「ほら見ろガキ共、この街一番の絶景スポットだぞ。ご利益あっから拝んどけ」
あれから鼻唄交じりの西さんに無理やり連れて来られた場所は、彼いわくこの街一番の絶景スポットらしい。とはいえ廃墟ビルの屋上だがな。
はじめは抵抗していた豹牙先輩も、さすがにもう諦めて俺の隣に立っている。一人拝んでいる西さんをちらりと見て、すぐに広がる景色へ視線を戻した。
「どうせあれだろ? 司がまたなんか仕出かしたんだろ?」
つい先ほどまで拝んでいた西さんがそう言いながら、俺と豹牙先輩に缶コーヒーを手渡す。いつ買ったんだろうか。
「あいつガキん頃から変わんねぇからなー。で? 今回はなにしたの、アイツ」
「アンタに関係ねぇだろ……」
「お、江藤弟。それはやきもちかなー? 冷めないうちに俺が食ってやろーか?」
「近寄んな」
ニヤニヤしながら歩み寄る西さんに、豹牙先輩が舌打ちをこぼす。俺はそんな二人を呆然と眺めながら、そっとビルの下を覗き込む。
「あんまり身ぃ乗り出すなよ。あぶねぇだろ」
いらぬ心配をしたのか、西さんが俺の腕を引く。意外にも力が強くて驚いた。
「なぁ小虎、お前なんでお粥作ってんの?」
「え?」
「カシストでさ、お粥作ってんだろ、お前」
唐突な話題に思わず面食らっていると、ニヤニヤと微笑んでいた西さんの表情が真剣なものへと変わる。たじろぐ俺に、彼は煙草を咥えて深く、息を吐く。
「あー……こっからは俺の、まぁ、独り言な?」
頭を掻き、缶コーヒーを一気にあおった西さんは、今にも崩れそうな柵に肘をつける。
「俺、昔はまぁやんちゃしてまして、悪友が作ったチームなんぞにいましたよ。で、そこで俺は喧嘩するでもなくただ見てた。悪友二人が人を殴っていく様をただ見てた。悪友いわく、それが俺の役目なんだとよ。なんじゃそりゃーって最初はまぁ思わないでもないが、次第に見ることに変な充足感を持ち始めた。
同時に使命感も持った。この瞬間をどうにかして形にできねぇかなーって、毎日毎日そんなことを思ってた。だってよー、人が人を殴る、ただそれだけのことなのに、なんでか泣きそうな面してる奴とかいてよー。かと思えば鬼みてぇな奴もいて、とにかく形にしねぇとダメだ! って思ったわけ」
そこまで言って、どこから取り出したのか分からない小型のデジカメをこちらに向ける。
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