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ある日の朝日向家 - 1



「うわ」


不意に声が漏れた。
その間抜けさに若干恥を覚えるが、今、この場でそれを咎められる人間は寝入っている。

バイトを終えて帰宅した俺の目に真っ先に映ったもの、それがリビングのソファーで寝顔をさらしている玲央の姿だった。
普段見る冷徹な瞳は閉じられ、男にしては長いまつげが光を帯びて細く見える。
すっと伸びた高い鼻筋に、シャープな輪郭。意外と白い肌にかぶる金の髪。


「人形みてぇ……」


そう、まるで西洋人形のようだ。
自分の口からこぼれた呟きに頷きながら、玲央にタオルケットをかけた俺はシャワーを浴びに向かった。

さすがに上がる頃にはもう起きて、勝手に飯でも食べているだろうと考えていたが、玲央はシャワーを浴びる前と変わらない姿勢のまま静かに寝息を立てていた。
少しだけ不安になってよくよく見るが、熱がありそうでもないし、息が荒いというわけでもない。どうやら、ただ疲れ切っているだけらしい。


「……」


そりゃ、そうだよなぁ。
高校生のくせにモデルの仕事をしてるし、それと同時に勉強だってしてるし。あと……総長だし?
一般の男子高生よりは遙かに忙しいだろう玲央の疲れを想像しても、やはり行き着く答えは計り知れない。というもので。

それが自分を養うと宣言した玲央の頑張りなら、「無理をするな」と声をかけるのはあまりにも酷だろう。
だからといって「頑張って」も不適切な気がする……。

どうすれば玲央を傷つけず、かつ彼の努力を労う言葉が見つかるのだろう。
眉間にしわを寄せて悶々と悩んでいると、ふいに目の前の猛獣が寝返りを打った気がした。――と思ったら、なぜか俺は玲央に頭を抱えられていた。
なにこれ不思議。


「……玲央ぉ? 起きてる?」


自分でも情けない声が出た。
それを振り払うように腰に回された腕をはがしてみるが、その努力は無駄に終わった。




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