「小虎」
「……志狼」
そんなときに顔面青痣、片腕骨折だろうボロボロの志狼が現れた。
ギョッと目を瞠るが、玲央と喧嘩したのだろうと納得もしてみる。
あの日、玲央は志狼との喧嘩を後回しにした。
俺が玲央と話している間にどこかへ消えていたが、そのときリンチまがいなこと玲央がするはずもないから、多分、総長としての玲央と一対一で喧嘩した傷なんだろう。
「……その、怪我」
「うん。玲央と喧嘩してね。まぁ、やっぱり敵わなかった」
「……そっか」
「うん」
どこかぎこちない空気が互いから漂う。
それでも俺はいつも志狼が座る席を促して、やつを座らせることにする。
座った志狼は相変わらずオーガズムを頼むが、それに突っ込む気はない。
「で、なに食べる?」
「…………じゃあ、卵粥で」
「おう、りょーかい」
決めたんだ。志狼が来たら、とびっきりのお粥を作ってやるって。
それで少しでも志狼が抱える問題が、いや、問題を考える時間を減らせればいい。
もっと欲を言えば、その問題の打開点が浮かぶような、そんな余裕を与えてやりたい。
言葉じゃなくても分かるような、他人との時間を感じて欲しい。
――オーガズムを口に運んだ志狼が、煙草に火をつけた。
「……ごめんね」
「……え?」
「巻き込んで、ごめん。本当はさ、あんなことしても意味ないって分かってた。分かってたし、正直、小虎に接してみてやりたくないとも思ってた」
「……うん」
「けど、俺もむしゃくしゃしてたから……だから、ごめん。謝って許して貰うつもりはないけど、今日じゃなくてもまた、お粥、作って欲しい」
「……ばーか。いつでも作ってやるよ。それが俺の仕事だからな」
空気を少しでも和らげたくて、わざと茶化してみる。
それでおもりが取れたように、志狼が笑った。
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