それから撮影現場に戻れば、匡子さんはスタッフだろう人たちのもとへ行き、俺は俺で撮影待ちの玲央の隣に座っていた。
なにやら聞かれるのかとも思ったが、玲央はいたって普通なまま、堂々と喫煙している。むしろそっちのほうに驚いたぞ、俺は。
「……」
「……お前よ、聞きてぇことあんなら言えや」
そわそわしていたのがバレたのか、玲央がため息をついてそう言った。
ビクリと跳ねた体を玲央に向ければ、やつは少し細めた目で俺を見ている。
「……俺、さ」
「あ?」
「……最近、色々あったじゃん。玲央に関わることでさ、色々」
「あぁ」
「それって、嬉しいんだ。ただ一緒に暮らしてるだけじゃ見えないとこも見れて、嬉しい」
「……」
「仁さんとか、司さんとか、匡子さんとか、大人から見た玲央を見れるのも、すごい嬉しい」
「……」
なにを言いたいのか、自分でも正直分からない。
聞きたいことも、知りたいことも、言って欲しいこともたくさんある。
でもそれを一つにまとめるにはあまりにも膨大で、あまりにも乱暴で。
だからそのつど感じる感情を、行動の理由にしてもいいのだろうか。
「だから……」
「……あ?」
「……」
口が開いたまま、言葉が出てこない。
なにかが喉に詰まったように、上手く声が出てこない。
頭の中を回っている思考が、追いついてこない。
「……だから、…………ごめ、やっぱいい」
「……こと「玲央ー! 撮影するわよー!」……チッ」
タイミングよく、玲央の番になったらしい。
俺はどこか安堵しながら、言いたげな顔をする玲央から目を逸らした。
その日はそのまま撮影がつづき、俺は夕方になって匡子さんに送ってもらった。
玲央は明日もまた、撮影らしい。
……モヤモヤが、納まらない。
← →
しおりを挟む /
戻る