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「てめぇの兄貴はな、自分さえ良けりゃ他のことなんてどうでもいいんだよ。仲間? 彼女? 弟? ――はっ、くっだらねぇ」

「……に、き」

「なのにてめぇはよ、どうしてそれが分かんねぇんだろうなぁ? 俺が怖くてろくな抵抗もできねぇくせによ、まだ兄弟ごっこしてぇのか? あ?」

「……」


あぁ、なんか。なんだかすごく――痛々しい。
まるで傷を負って、それが悟られないよう牙を向ける獣のようだ。いや、獣だ。この人は獣だ。
気に食わないと牙を向け、うざったいと爪を研ぐ。目障りだと――噛みつく。

そうして自分の気持ちに素直でいるくせに、いざ苦手なものを前にすると威嚇する。彼は、獣だ。


「そうじゃない、そうじゃないよ兄貴。アンタこそなんも分かってねぇ」

「……あ?」

「なぁ兄貴、俺はさ、アンタを許したりしねーよ。絶対、許したりしねぇ」

「……」


許すわけがないだろう。アンタが俺に傷を負わせた過去はどんなに足掻いても消えないんだ。頬をつねれば痛いように、夢ではない。――現実だ。
アンタが殴ったことも、蹴ったことも、罵声を浴びせたあの日々も――すべて現実だ。

けどそれだけが現実じゃない。アンタが俺に見せてくれた笑顔も、優しさも、兄貴面も――現実なんだよ。


「でもアンタを許さないことと家族として向き合うことは、違うだろ」


上手くは言えない。けど、違うんだ。違うんだ、そうだろ?

だって俺が許したりしたら、きっとアンタは罪悪感に飲まれるだろう。
許せることだと分かれば、きっとアンタは罪の意識を失うだろう。

そんなこと、俺がいまさら許すわけ、ねーだろうが。


「――違わねぇよ」

「え?」

――バキィイイッ!


およそ起こるはずもない音が、体の横――そのうしろにあるソファーから発せられた。恐る恐る見てみれば、そこには玲央のつま先が確かにソファーを蹴り破っていた。恐らく中の木材も壊れたのだろう。だからあんな音がしたのだろう。




 


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