「だぁーっ! またや!」
ぼろぼろとテーブルに落ちる小さな食器とウサギのお人形たち。
どうやらまたいいところで失敗してしまったらしい。少し前から娘と一緒にドールハウスで遊んでいたが、仕事では大いに役に立つその大きな手が仇となってしまい、並べては手が当たって落下するのを繰り返している。
「ほんっまになんやねんこれ」
「パパ、わたウサギさん痛いって」
「あー!ごめんなぁ」
イライラし始めるも娘の一言でコロッと人形に謝っている。すでにしっかりと娘の尻に敷かれていた。
「はぁー、神経使ったわ」
「お疲れ様」
遊び疲れた娘をソファーに寝かせて、修吾がキッチンへ入ってくる。
「女の子の遊びはどうもちまちましとってむいてへん」
「ふふ、イライラしてたねぇ」
「娘可愛さで乗り越えましたわ」
「はい、どうぞ」
お茶を注いだコップを渡すと喉が渇いていたのか一気に飲み干した。相当疲れたらしい。
夕飯何にしようかな、と冷蔵庫を覗いていると、肩にずしっと重みがかかる。
「なに?」
おでこを肩にくっつけるようにした修吾が「なぁ名前」と額を肩にぐりぐり押し付ける。そんなに腰まげて痛くないのかな。
「どうしたの」
いつの間にかお腹の前で組まれた手をぽんぽんと叩いて尋ねる。こんな甘えてくるの珍しい。
「なぁ、もう一人欲しいとか思わん?」
「えぇ」
今言う?呆れたような声をあげると「あいつ寝とる時しかこんな話できんやん」と拗ねた顔をする。ちょっと可愛くてときめいてしまった。なんか悔しい。
「どない?」
「えぇ…そりゃまぁ、良いと思います、ケド」
だんだん小さな声にはなってしまったが、視線を何もないところへ泳がせながらそう答える。
「ホンマ」
「もう、声大きいって」
起きちゃうよ!と注意すれば、あかん!とでも言うように手で口を塞いでいた。
「ほな、今日は早よ寝てもらわんとな」
ニヤッと笑う顔が急に父親からひとりの男性の表情に変わったように思えて、照れくささを隠すために「バカじゃないの」と言ってしまった。