Funny


夢を見た。
エイブリーとマルシベールが私に初めて話し掛けてきた時のこと。




「教科書忘れた」


朝の一発目の授業。呪文学。
昨日予習をしたまま机の上に置いてきてしまったらしい。
寮に戻るには少し……否かなり時間が足りない。
誰かに見せてもらおうにも見せてもらえるような友達がいない。
さて、困った。
教室の後ろでうんうん唸っていると、後ろから


「邪魔だ」


寝起き一発目の不機嫌な声が聞こえた。
真ん中に立ってたらそりゃ邪魔だよな、と反省しながら「ごめん」と謝って横にずれる。
ふん、と鼻を鳴らしながらスタスタと歩いていく。声の通り不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた黒い彼は、スリザリンのネクタイをしていた。


「……ねえ」

「うわっ……、……なんだ」


咄嗟に彼の肩をガシッと掴む。
皺が更に深くなったが気にしない気にしない。


「きみ、友達いないよね?実は私もいないんだよね」

「はあ?」

「シレンシオ、黙れ」

「で、教科書忘れ――、……??……、……?」


用件を言おうとした刹那、後ろからアルトの声で呪文が聞こえた。
シレンシオ……黙らせる呪文だったか。
現に私は喋れない。

さて、何故私は黙らされたのか。
目の前の黒い彼もびっくりして、私と私の後ろを交互に見ている。
後ろに誰がいるのかと見てみたら、それは大層顔が整っていらっしゃる男二人。
知り合いのしの字もない、全くの初対面。
通り魔かな?


「教科書忘れたの?僕が貸そうか?」


その一言で、教室の女子――スリザリンのみならず、合同のグリフィンドールの女子までもが――一斉にこっちを見た。
一度にあんな視線を、それも鋭い視線を浴びることはなかなかないので、変な汗がじわりと浮かんで心臓がバクバクする。
なるほど、ブラック兄に次いで関わらない方が良い男か。


「……、……あ、喋れる。いや、忘れたと思ってたけど、うん、やっぱり忘れたので、彼に見せてもらうよ」

「僕が貸そうか?」

「……忘れたと思ったけど、ほら、見て。やっぱりない。ないね。だから彼に――」

「僕が、貸そうか?」


なんだコイツ。
一日一善を目標としているのか?一日はまだ始まったばかりだというのに。
しかもこんな通り魔から借りるなんて、授業中も集中できそうにない。
チラッと黒い彼を見ると、既にそこにはいなく、後ろの端っこの席に座っていた。
そりゃこれだけ視線を浴びるとね、分かる分かる。仕方が無い。


「ねえ、貴方たち」

「……なんだ」

「彼女嫌がってるじゃない。いきなり呪文喰らって一緒に教科書を見れるとでも思ってるの?」

「そうだそうだ」


黒い彼の代わりに、赤い彼女が来てくれた。
が、凄いなぁ……赤いネクタイ。グリフィンドールらしい。
このくっそ視線を浴びる中で、一人敵地へと突っ込んでくるその勇気。勇敢というか、無謀というか。


「チッ……けがれ――」

「シレンシオ、黙れ」


アルトの声が不快な言葉を放とうとした。
すかさず私は黙らせる呪文を放った。
クラスから悲鳴ともとれる、恐怖が混ざった声と、いいぞー!と野次を飛ばす声が聞こえる。


「ふは、やられたねエイブリー」

「……!!……!!」


エイブリー?
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
……まあいいか。テノールの方はけたけたと、しかし上品に笑い、アルトの方はだいぶ怒りながら、黒い彼の前に腰を下ろした。
通り魔というか、台風みたいな奴らだ。
みんなの視線は既に私たちになかった。が、教室の空気は何とも言い難いものとなってしまった。


「ごめんね、ありがとう。えーと……」

「あ……こちらこそありがとう。リリー・エバンズよ」

「エバンズ。私はハルカ・ツルノ。」

「リリーでいいわ。教科書なんだけど、私の使って」

「えっ、いや、でも……リリーは」

「私はセブ……あ、セブルス・スネイプ。こっちを睨んでるさっきの彼。に、見せてもらうから」


どうやら黒い彼……スネイプとリリーは友達だったらしい。
なんだ、あいつ友達いるんじゃん。


「分かった。ごめんね、ありがとう」

「いいのよ。テストも近いから、教科書は必須よね」


苦笑しながそう言うリリーは、同性ながらも惚れ惚れしてしまう可愛さだった。



無事授業が終わって、リリーに教科書を返して、教室を出た。
出ようとした。
出れなかった。


「……」


さっきのテノールとアルトが扉の前に立ちはだかっていた。
右に行こうとすると、二人も右へ。
左に行こうとすると、二人も左へ。
他の人の後ろを着いていこうとすると、ついに首根っこを掴まれた。
こわ。


「……なんでしょう」

「友達になろうよ」

「嫌です」

「何故だ」

「逆に何故友達になれると思ったのか」

「ツルノ、友達いないだろ」

「うん、うん……いや別に欲しいってわけじゃ」

「ハルカ、友達になろうよ」

「なんで私のフルネーム知られてるんだ……」

「さっき自己紹介してただろ」

「うん、リリーにね」

「穢れた血は良くて俺たちは駄目なのか?」

「スーパーウルトラめんどくせぇ」


会話ってこんなに難しいものだったっけ?
色々なパーティに参加してるけど、ここまでコミュニケーション取りづらい人は初めてだよ……。


「なんで私なの?」

「「面白そうだから」」





……悪夢だ。



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