Funny


「チッ……遅かったか」

「遅かったね」

「だが、まあ……早くても」

「うん。マルフォイを殺していたかもしれない」


先輩ですら殺されていたかもしれないなら、私はこれからどうなるんです?
ていうかなんで二人はそんな怒ってるんです?
……あっ、ホグズミードに勝手に出掛けたからか。あちゃー……これはやばい。
本来なら私は今頃部屋で課題をやっているはずだ。
そう約束したから。

……これは、やばい。


「私ハルカじゃないヨ」


自分で言っといて頭おかしいんじゃないかなって思った。
二人の眉間のシワは深まるばかり。
私の恐怖も深まるばかり。


「取り敢えず、学校に戻ろうか」

「…………ハニーデュークス……」

「ハルカじゃねぇか」

「違うヨ」

「あれだけ忠告して、分かったって言って約束したのにね。それを破って嘘まで吐かれるとは」

「もっと教え込む必要があるな」


…………なにを?
そう聞く前に、私の意識は暗くフェードアウトした。
最後に見たのは、エイブリーが杖を持っている姿。
無言呪文も使えたとは……不覚……。




















「ハニーデュークス!」

「おはよう」


違った。


「……?どこ、ここ」

「さあ、どこだろうな」


私がいるのはベッドの上。右側にエイブリーが。左側にマルシベールが側臥位になっている。
しかし寮のベッドではない。天蓋付きの、五人は余裕で寝られる、大きな大きなベッド。
周りには何も無い。テーブルも、クローゼットも、ソファーも、何も。
ただただ白が貼られているだけの部屋。
今までホグワーツにいて、こんな部屋は見たことがない。
ここは一体……。ぞくりと寒気がした。決して寒くはないはずなのに。


「あ……、と、え、と……私、課題……やらなきゃ……」

「その前に、俺たちに言う事があんだろ」

「……ごめんなさい?」

「で?」

「……心配してくれたのに、約束破ってごめんなさい」

「で?」

「反省、してます」

「へえ」

「っ」


ぎしっとエイブリーが近付いてきたと思えば、それはそれは意地の悪い笑みを浮かべた。
いつもとは違う恐怖が背中を伝った。


「反省、ね」

「……」

「ハルカはこう言ってるぜ、どうする?マルシベール」

「言葉ではなんとだって言えるからね。……不合格、かな」

「だとよ」

「な、」


不合格。
その言葉に間髪をいれず、エイブリーは杖を構えた。
そして


「インカーセラス」

「えっ!」


私の手首と足首を縛った。
一つに纏められた私の手足は、使い物にならない。
……やばい。これは、本当にやばい。
この呪文の、この呪文以外も、今までも何度も放たれてきた。
しかし、こんなにも目をギラつかせて、感情を表に出している二人は……初めてだ。


「さあて、どうしてやろうか。服従の呪文でも使うか?」

「磔の呪文もいいよね」

「ああ――、いっそ殺すか?」


ひゅっ、と、息が詰まるのを感じた。
顔は笑っている。しかしギラギラと燃える目は笑っていない。
本気だ。


「それも悪くないね。けど……うん、そうだね。アレはどうかな」

「アレ……ああ、アレか。はっ、いいな、悪くない」

「手加減、してよ?」

「そうだなぁ――セクタムセンプラ!」

「ぎっ、い、あああああああっ!!!!」


初めて聞く呪文。そして。

ザクザクザクッ!

身体を刻む音が耳に入ってきた。ワンテンポ遅れて痛みが身体に走る。
痛みなんてもんじゃない、激痛なんてもんじゃない。
口からは言葉を発することもできない。「あ」だの「い」だの、無意味な言葉しか出てこない。
痛い。痛い、痛い、痛い。
なんで、どうして。二人は笑ってるの。
なんで、私、こんな目に遭ってるの?
痛い、痛い。



「ぐ、ううっ……」

「大袈裟だな。手加減してやったのに」

「出血はそこまでじゃないしね。……ね、ハルカ。どうして、って思ったでしょ」

「っ」

「その傷。間違いなく跡が残るだろうけどさ。自分の身体の傷を見る度に、僕達のことを思い浮かべるだろう?」

「そしてマルフォイのことを見る度に俺たちのことを思い浮かべる」

「ホグズミードに行く度に思い浮かべる」

「俺達に、恐怖を覚える」

「恐怖はね、時として最高の枷となるんだよ。ね、ハルカ。次に僕達との約束を破ったり、僕達以外の男と親しそうにしてたら……分かるよね?」




ああ、狂ってる。
友達なんて、嘘だ。





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