Short-FT
夜の帳が下りたフェアリーテイルは、大きいクエストをこなした後だからかいつも以上に賑わっていた。
「ねえ、アンタ達はどう思う?」
何やらオシャレな色のアルコールが入ったグラスを片手に、ルーシィがやって来てビックスローに絡み始める。
「友達の好きと、恋人の好きだァ?」
「そう!私とリサーナじゃ意見が割れてね」
ため息混じりにそういうルーシィはとても可愛い。
私はというと、別にビックスローと一緒に飲んでたわけではないが、たまたま近くに座っていたので、ふふ、と笑いながらそんな二人を眺めた。
ふむ、とちょっと考える素振りを見せるビックスローは酔っているのか、珍しくさらけ出している顔は微かに紅くなっている。
私は小洒落たグラスを持った。地方で造られた麦酒はその地域独特の味がして興味深く、唯一無二の味がして好きだ。
「そんなの、コレを出来るか、出来ないかだろうなァ」
なんて刹那、いつから隣に座っていたのかなんて思う隙も無く。
どうやら私も随分アルコールが回っているらしいが、ぐいっと私を引き寄せたビックスローからは、お酒の香りがした。
同じくらいお酒の香りをさせたルーシィが身を乗り出して返す。
「なるほど……つまり、それが出来るということは……」
「気の許せる友達ってことだヨ」
はは、と笑うビックスロー。それにつられて、色々なものを噛み締めてはは、と笑う私。えー!と声を上げるルーシィ。
手にしていたグラスは、すっかり汗をかいてぬるくなってしまっていた。
ビックスローとルーシィは、興が乗ったのか二人だけの世界に入ってしまった。
この麦酒、辛口だな。
それってつまり、ビックスローは私を友達としてしか見てないってことだよなあ。
一連の騒動でうっすら抜けてしまったアルコールを鼻に感じながら、帰路に着いていた。
足取りは重たい。
「ううん……」
告白する前に振られたという事実は、今まで飲んできたどんな麦酒よりも苦い。
まあでも……臆病な私としては、当たって砕けるより当たる前に砕けて……良かった、のかな。
「はぁ……飲み直しに行こうかな」
「シュリじゃないか」
「ロキ」
誰に届けるわけでもない私の一人言は、「やあ」なんて爽やかに片手を上げるロキに届いたらしい。
「ロキももう帰るの?」
「ナツとグレイが全裸で喧嘩を初めて、カナとギルダーツがそれに乗ってたから……身の危険を感じて逃げてきたんだ」
う〜ん、困ったように笑うイケメンはどんな表情でもやはりイケメンだ。
「それは正解だね」
「でもまだ飲み足りなくてね……良ければ付き合ってくれない?」
「私で良ければ──」
「オイ!」
あはは、と笑いながら差し出された手に、手を重ねようとしたら
「うわ!?」
グイッ、と。
ロキに向けた私の手は、強引も強引に……これまたどこからやって来たのか、ビックスローに引かれた。
あまりの力に思わずよろける。
「飲みに行くって約束はどうなったんだヨ!」
…………約束?
私はぽかんとしたままロキと顔を向け合う。
そうだったの?ロキは目で話す。
いや、記憶に全くないんだけど。私は首を横に振る。
でも彼……あまり酔ってる感じしないよ。ロキが続ける。
いやでも……ええ?私はビックスローを見る。
仮面から覗く緑の双眸は、たしかに私に向けていた。
あまりに真っ直ぐな瞳に、思わず私は怯みそうになる。
「……あー……ビックスロー?私、約束した記憶ないんだけど…………てかルーシィと飲んでなかった?」
「ア?」
こっっっっっっっっっっわ。
事実を述べただけなのに、仮面の奥の緑は細くなり、ドスの効いた声に思わずきゅっと口を噤む。
さっきまでの上機嫌さはどこに行ったんですか????
「……ああ、なるほど。邪魔したようだね。シュリ、また今度飲み直ししよう」
何かを察したらしいロキは、またも爽やかに手をひらひらさせて去っていこうとする。
何を察したのか知らないけど、どうか一人にしないでほしい。
「ちょ、ま……!」
ロキを逃がさまいと、空いてる腕を伸ばすが…………悲しいかな、彼の逃げ足は早い。
ナツとグレイの餌食になってしまえば良かったのに。
ロキに届かなかった腕は、ビックスローに取られた。
……さて。
アルコールもすっかり抜け、いつも以上に聡明な私の脳みそは、恐ろしいくらい冷静だった。
目の前には、暗に私を振った私の想い人がいて、そんな私の想い人はありもしない約束を取り付けようとした挙句、何故か怒っているようだ。
うん。
冷静に分析した結果、ちょっとよく分からない。
「……」
「……」
しかも何も言わない。
「……」
「……」
夜とはいえ、往来の人もぼちぼちいる通りだ。
ちょっと気まずくなってきたので、折れて口を開こうとすると
「お前はどう思ってんだ」
脈絡の無いことを言われ、口を閉じる。
…………何を?
「……友達の好きと、恋人の好きについて、ルーシィ聞いてただロ」
…………あの話まだ続いてたの!!!??
答えを言わず出てきた私を追ってきたってこと!!?
めっちゃ乙女じゃん……だがしかし答えづらい。困った。
「あー……や、ビックスローと同じ意見だよ」
とりあえず当たり障りのない答えを返す。
これ、今出来る100点満点の答えだろうとビックスローを見ると、どうやら0点だったらしい。抑えきれていない怒気が溢れていた。めっちゃ怒ってるっぽい。
仮面越しなのに顔怖。
「じゃあお前はロキが好きなのか?」
「ええ!?なんで!?いや、今日のビックスロー話飛びすぎじゃない!!?」
「いいから答えろヨ」
全くもってビックスローが何を言いたいのか分からない。
何かを察したロキくんへ。一体何を察したというのですか。
「いや別に……それこそ友人として好きだよ。てか、ビックスローこそルーシィが好きなんでしょ?置いてきて良かったの──」
最後まで言い終えたタイミングで、噛み付くようなキスをされた。
…………冷静な私の脳みそでも、さすがにキスをされるとは思っていなかったというか……え?なんで私キスされてんの?
「好きだ」
…………すき?
「…………すき?」
「お前の魂の色を見て……お前も俺を好きだと思ってた。でもお前はロキにあんな顔するし、」
「ま、まってまって、私どんな顔してたの!?いや、魂の色って何!!?てか……え!?私たち、気の許せる友達なんじゃないの!?」
「そりゃあ、お前の気持ちは分かってたから!冗談だヨ!!」
「いや分かんない冗談止めてくれる!!?私てっきり振られたのかと」
「……それで拗ねてギルドを飛び出したのか?」
「…………」
はい、と言うには悔しすぎるし、いいえ、と言うには……今更過ぎると言うか、めっちゃニヤニヤしてるからバレてるんだろうなって思う。
「……私は魂見れないから、ビックスローがどう思ってるか分かんないもん」
「悪かったって。……なア、飲み直し行くぞ」
「…………こっち、ビックスローの家じゃない?」
「宅飲み宅飲み」
何かを察したロキへ。
たぶんそれ、正解です。
[*prev] | [next#]