(130516)
どうしてこの人の髪は綺麗なんだろう、とか。どうして俺はこの人と一緒に調査兵団にいるんだろう、とか。どうして俺はまだ生きていられるんだろう、とか。どうでも良かったり、案外重要だったり、そんな事を何度も考えながら俺は"夜"を過ごしている。分隊長。何となく呟いた言葉は乾いていた。行儀悪くスープを啜るような音が響き、ぼんやりと揺蕩っていた俺の意識がびりびりっとこっちに戻ってくる。

「何」
「何でも、ありません」

かろうじてそう返すと、分隊長は小さく肩を竦めた。括った黒髪が細やかに揺れたのが印象的だった。分隊長のくちびるは唾液で濡れていて、その様は俺の背筋を震わせるのに十分だった。くちびるの下から一瞬だけ並列した白い歯が見え、その奥にはいつか庭で見たような鈍い赤色の花を思わせる色の舌がひとつ待っていた。

「う、っ」

腰から頭のてっぺんにかけて鋭い刺激が飛び上がる。どこか神聖にすら見えてきたそのくちびると、歯と、舌を使って分隊長は何故か、しっかりと勃起した俺のモノを舐めている。体温を直に感じる熱さに、俺の頭はまるで酔っぱらったみたいにくらくらした。よく、わからない。分隊長が俺のを銜えてしゃぶってる理由も、俺の分隊長に対する何かしらの情熱も、この関係も、全部わからない。全部。

「分隊長…なん、で」

キスでもするみたいに、ちゅ、と濡れた音を立ててくちびるを離した分隊長がちらりと俺を見る。だけどやっぱりこの人は何も言わなかった。花色の舌をくちびるから出した分隊長が、勃起した裏筋を執拗なやり方で舐める。唾液をこぼすほど含ませ、押し付けるように竿をねぶる様相には震えるしか無くて、俺は半べそをかきながら引き攣れたように喘いだ。分隊長は声を抑える俺を面白がってか、今度はその白い指で雁をなぞったり先端の窪みを指の腹で擦ったりする。おまけに玉までやわらかく揉んでくるので背を反らせてしまった。息を漏らすような笑い声に視線を落とすと、分隊長は俺の股のところでこっそり笑っているみたいだった。

「気持ちいいんだ?」

眼鏡の下の瞳がカーブを描いた。分隊長が猫に見えた。

「ッあ…分隊長、う……」
「……そうじゃないでしょ」
「…っ」
「何回教えたと思ってるの。…ほら」

口を閉じたままでいると分隊長が促すように雁首を詰る。腰が震えて、とろ、と奥の方から溢れるような感じがした。しっかりと根元を握る分隊長の指が憎らしい。早く出したいのに。

「ハンジ…さん…」

この人が俺に望む絶対の事柄。「ああ、すごく良い。今の声。上出来だよ」、恍惚としたようにも聞こえるし、からかってるようにも聞こえた。だけれど分隊長…ハンジさんは、名前を呼んだだけの俺にきちんとご褒美をくれるのだ。垂れた髪をそっと掻き上げたハンジさんがまたくちびるを開いた。股の間で屈んで、頭を前後させたり上下させたりして竿をねぶるハンジさんに心臓がやぶれそうになる。あ、あ。たまんねぇ。なんだ、これ。なんで、あの分隊長が、俺なんかに名前呼ばれて興奮して、俺のチンポうまそうにしゃぶってんだろう………。

「く…ぁっは…ハンジさん、ハンジさん…」
「ふは…そそられるんだよなあ、君の声」
「ハンジさん…」

唾液と絡み合う我慢汁が白くなり始めているのにお互いに気付いていた。ぬめりを生かして根本から扱くハンジさんの指が、撃たれてすぐの銃口のように熱い気がした。ヤケドだ。こんなの、ヤケドするに決まってる。奥からせり上がるのをハンジさんが舌で誘導していく。腰ががくがくと揺れた。はんじさん。呟くとハンジさんがやわらかく歯を立てた。ぐっと背が撓って、俺は無意識にハンジさんの髪の毛を掴んでいた。



「ぅあ…あ…」

ちゅるちゅると残滓を吸い、舐める。硬さを失くしてふにゃりとしたそれをハンジさんが舌先でつつくのをぼんやりと見下ろしていた。掌のなかで黒髪が躍る。水気のある卑猥な音を立ててくちびるが離される、ツーと粘っこい液体がハンジさんのくちびると俺のとを結んだように見えた。力の抜けた俺の掌から、ハンジさんの髪の感触が消える。虚ろな目でもしているだろう俺を覗き込んだハンジさんは無意識だかなんだか知らないが、ザーメンとよだれにまみれたくちびるをぺろっと舐めてみせた。エロかった。

「ハンジさん…」
「ん?なあに」

「俺だけが名前を呼ぶなんて…変だ…」


どうしても、言いたかった。


繋がりを欲しがるだけの獣
title by 怪奇


「だってその方が後腐れ無くって良いじゃない。私たち、セフレですらないんだから。なぁに、君、もしかして私に名前を呼ばれたい…なんて思ったのかな?」
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