俺どうなってんの。俺は男じゃねえの。俺何やってんの。ってそればっかりがさっきからずっと頭の中を巡ってた。はっ、はっ、と短い息を吐きながら俯せでシーツに爪を立てるとビッと鋭い音がして、やべえ、破いちまった、とまたちょっと別の方向に意識が飛んだ。一瞬の気の緩み、隙を突くように腹の奥底を異物が抉り抜く。「あッ」女の悲鳴が俺の口から飛び出した。底の方から何かが、じわ、とわき出す。ぶちゅぶちゅと繰り返される水音が本当にもう気持ち悪い。腹に溜まる鈍痛を外に逃がせなくて思わず首を振った。嫌。嫌だ。気持ち悪い。気持ち悪い。

「ここまで来ると、ホンマに、奇跡やな」

弾んだ声がする。それまで容赦なく抽挿を繰り返していた今吉がぴたりと動作を止めて、俺のなかからズ、とそれを抜いた。でも休ませる気なんか更々ないらしいこいつは、俺を容易く引っ繰り返すと、さんざんぶち込まれて緩んだケツに先を押し当ててそのまま腰を進めてしまった。また。はいって、くる。「ぃ、あ、ああ…」ろくな抵抗もせず飲みこんだ孔を恨めしいと思うけど、ショートしてる頭が俺に伝達するのはそこがだらしない性器と化してますよ、って情報だけ。ぞくぞくぞく、と背筋がしびれて体がのたうつ。顔を見られたくなくてとっさに腕で目を覆ったら真っ暗闇で、逆に感覚がすげえ敏感になった。震える息を吐き出しながら、過敏になった聴覚で今吉を探っていたとき、満足そうに詰めた息を吐き出したこいつは俺の太腿に指を添えた。ツ、となぞるように肌を滑った今吉の指がにちゃ、と粘ついた音を立てる。流れ出ていたのは潤滑剤でなく、どろっとした血液だ。

「うーわ。すごいなぁ、これ」

からかうような声に肌が粟立つ。別に、俺は怪我をしているわけじゃない。無理やり今吉に組み敷かれてレイプまがいの扱いを受けているのは確かにその通りともいえるが、さすがにこいつは怪我させてまでヤるような奴じゃない。
……だったらこれは何か。

「いつからこないな体になってもうたん?」
「知ら、な」
「腹が痛い?情緒も不安?その上こんな血ぃなんか出して、これじゃまるで」

そこから先は聞きたくなくて震える手で耳を塞いだ。みっともないほど泣きじゃくったばかりの俺は目の前がまともに見えないほど涙で歪んでいて今吉がどんなツラして俺の事見下ろしてるのかさっぱりわからない。俺の身体は、いつからだか、おかしかった。誰にも知られたくなくて、何食わぬ顔して、それなのに…。目の奥がズンと重くなって、鼻が痛くなって、また俺は泣き出していた。耳を塞いでいた手を目元に持って行って必死で擦りながら、止まらない嗚咽に呼吸を阻まれる。とまれ。とまれよ。

「そんなしたらアカンよ」

声と同時に手首を掴まれる。無理やり開かれた視界、相変わらず濡れて歪んだ向こう側で薄ら笑いを浮かべた今吉と目が合った、気がした。ぞっとする笑顔だった。鋭い目つきで俺を見下ろして口を裂いたような笑顔。何でそんな目で俺を見るんだよ。何でそんな、(興奮したような目で)

「ああ! その顔最高に、かわええ」
「ぃ、あ、ああッ!」

拒絶するつもりで伸ばした手が彷徨う。俺の膝裏を押しこんで開き、足首を肩にかけさせて始まるもう何度目かもわからない抽挿。激しく出し入れされて飛び散る血液がスプラッターを思わせるシーツ。屈んだ今吉が俺のこめかみに口付けると、また、体の奥からどろりとした物が溢れて、尻から背中につう、と流れた。きもちわるい。

「や、嫌だ…あ、ひっ…ああ、あッ」
「自分さっきから嫌や嫌や言うてる割にロクな抵抗せえへんやんか」

自覚ないの。嗤うように言われて目を見開く。また、あの笑顔を正面からまっすぐ見てしまった。色に濡れた目が怖い。何、興奮してんの、お前。男組み敷いて、犯して、しかも、組み敷いた男は普通のからだじゃ、なくて、なのに、なんでお前そんな、そんなたのしそうな顔して笑ってんだよ……。身を捩って逃げ出そうとするのを、強く太腿を掴まれて封じられる。抜けかけたそれを勢いよく奥までぶち込まれて息が詰まった。筋肉がこわばってピンと伸びた足に反して、腰から上に力が入らない。喘ぎ続けてよだれが落ちて糸を引く。さっきはめちゃくちゃに揺さぶっていただけだったのに、不意に探るような動きをしたあと、すぐ。なかのしこりを潰されて体中が戦慄いた。声を出すのも忘れるくらい、その一瞬、きもち、よかった。

「うあ、あァああっ! ら、め、ぇッ」
「どこのエロマンガやねん。舌足りてへんで」
「ん、ぁ…うっ…」

よだれをたらす俺に、お構いなしにキスをしてくる。俺の形だけの抵抗はあっさり跳ねのけられて、やわらかい舌が唾液を流し込んでくるからひどく噎せ返った。涙も止まらない。なんだこれ。下半身だけが別物みたいに熱持って、揺すられるたびに喉の奥からあんあんって、AV女優みたいな嘘くせぇ声が突きぬけた。

「そういえばさっきおもてんけど」
「ん、んっ…ああっ、ひ、ぅっ…」
「言わんといた方がええかなーともおもてんけどな、うん、やっぱり言うとこ」

喘ぐのに必死な俺の耳元に、屈んだ今吉がくちびるを寄せる。おかげさまでもっと奥までそれが俺の中に埋まって、俺は素っ頓狂な声をあげて新しいよだれを溢した。ああ、こいつ、どうせまたあんな顔して笑ってるんだろうな。はくはくと息をしていたら、耳元に寄せられたその裂けたくちびるからざらざらに掠れた声がした。


「なあ、生理ってなんのためにあるか知っとる?」


そんなこと、いちいち言わなくて良い。
また、奥の方から、じわり。来週、試してみよか、生々しい音を立てて再開される抽挿に気が遠くなる。何を試すんだ、とは、訊かなかった。そんなこと、いちいち言わなくて良い。…子宮って、どこにあるんだろう。

(140823)
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