火薬合宿 視点がいろいろ変ります





「合宿ぅ?」
左近が声を上げるのに、三郎次が自分の着替えを探しながらおざなりに頷いた。
夏休みを間近に控えた、ある日の夜。
左近と久作が思わず顔を見合わせたのは、三郎次の「やべえ、火薬委員会、合宿だっていわれた」と言ったからだった。
「え、何?今から?今日?」
久作が、立ち上がって三郎次が探していた頭巾を拾い上げて三郎次に投げつけた。
「ぶ…あ、ありがと久作。うん、なんか今からだって。三日間ぐらい。だから俺その間帰ってこないけど」
よし、と荷物をまとめた三郎次が、じゃ、よろしく!と手を上げた。



「え、え、え、え?ちょっと待って伊助」
頭を抱えた庄左ヱ門に、珍しいなと思いながら戸の前で振り返った伊助が「なに、庄ちゃん?」と首をかしげた。
「合宿って…どう、何、するの?」
「火薬の整理と片付け。夏休みに入る前にやってしまいたいって先輩が仰ったから」
荷物を背負った伊助は、急ぐそぶりを隠しもせずに笑った。
庄左ヱ門は寝巻きに着替えようとしていた手をさっきからずっと動かせないでいた。
けろりと言う伊助に脳がおっつかないのだ。
三日間?伊助がこの長屋に帰ってこない?もう夏休みに入ってしまうのに?
そんなの寂しいじゃないか!
「…それって、その、拒否できないの?」
「え?どうしてさ。だめだよ、兵助先輩が一番いやそうなのに参加してくださるんだから。」
「でも三日間なんて…その間授業は?」
「もちろん出るよ。庄ちゃんは自分でおきて教室へ行ってね」
ま、庄ちゃんなら大丈夫だと思うけど。
にっこり笑った伊助に、寂しさが抑えられない庄左ヱ門。しかし行かないで、なんて言う勇気なんて。
ふー、と浅いため息をついた庄左ヱ門がくすりと笑う。
「伊助のところも大変だね」
悔し紛れに言う言葉に、そうだね、と同意してもらえると思っていた庄左ヱ門はまた伊助に拍子抜けさせられるのだ。
伊助の黒く、長い髪が揺れる。
「うーん、でも僕、ちょっと楽しみなんだ。先輩達とずっと一緒ってなかなかないからさ。」
わくわくするよね!と、とってもかわいい笑顔を見せた伊助はそのままパタン、と何も残すことなく戸を閉じたのだった。



「え、で、どこに寝泊りするの。」
まとまって流れる髪を弄びながら、勘右衛門が質問を投げた。
兵助が首をすくめる。
寝る準備万端だった勘右衛門を起こして、兵助は合宿を行うことを伝えた。
それをふんふん聞いた勘右衛門は、あくびをして楽しそうだね、と感想を述べてから申し訳なさそうにする兵助に尋ねた。
「タカ丸さんの部屋。三人部屋を一人で使ってるって言うから…」
「へぇ。いい人じゃん」
勘右衛門の言葉に嫌そうな顔をした兵助は首を振った。
「いい人って。合宿って銘打ってるけどみっちり委員会するだけだし、そもそもそんなことしなきゃならなくなったのは、タカ丸さんが休憩ばっかり取るから仕事が終わらないからなんだし」
「あっはっは。そんでその人が、合宿しようって言い出したんでしょ?」
「そうなんだ。あの人がやりたかっただけじゃないのか、と。」
深い深いため息をついた兵助に、からからと勘右衛門が笑う。
兵助のためにとひかれた布団があまっており、それをみてますます嫌な気分になる兵助だ。
「火薬委員会って今まで一回も徹夜とかないもんね、そういえば」
「そもそもそんなに仕事もないはずだしな」
「そうだよねー。去年まで合宿なんてしてるの見たことなかったし」
「そうなんだ…。しかも明日からにすればいいのに。今日の夜から泊まり込みって…ただのお泊り会じゃないか、それじゃ。」
「はぁん。じゃ、兵助の分の布団、ひかなくて良かったんだね。」
「うん、ごめんね、勘ちゃん」
申し訳なさそうに謝った兵助が、じゃあ、そろそろ、と立ち上がる。
それに、うん、と返した勘右衛門は布団をもう一度かぶりなおした。
「おやすみ、勘ちゃん」
「ああ、お休み…兵助さ、」
「うん?」
立ち上がろうとした兵助は、布団から顔を出してこっちを向いている勘右衛門に聞き返す。
優しい顔をした勘右衛門はずっと兵助に、優しい。
「そんなに背負わないでいいと思うよ。後輩と喋れるいい機会だと思ってさ、楽しんでおいで。」





たったったった、と軽い足音がこちらに向かってくる。
伊助ちゃんだろうか、三郎次君だろうか。まだ足音で人を断定できない。
タカ丸は寝巻きで並べた二つの布団をドキドキしながら眺めていた。
言ってみるもんだなー。
タカ丸は思う。
慣れない学園に慣れない勉強、慣れない寄宿舎に慣れない同級生の若さ。
慣れないづくしのタカ丸に、委員会の仕事は苦痛の一つであった。
商売道具であった手先が汚れたり痛くなったりするのもかまわずさせられる力仕事は、あまり好きにはなれなさそうだった。
においもきついし暗いし狭い火薬倉庫は、学園の奥まったところにあって、まるで切り離されているかのよう。
一緒に仕事をする仲間はみんなみんな年下で、そのくせ自分よりよほどしっかりしている。いろんな意味で。
他の委員会より少ない活動時間についついイベント感覚になってしまったタカ丸は、伊助と話し込んだり、三人を引っ張って休憩を多く取ってみたり。
年下の同級生達とはまた違った魅力を持つ三人に興味を持ち、委員会を重ねるごとにその時間が増えた。
少ない仕事がたまっていくのは目に見えてわかったけれど、渋い顔をするだけで何も言わなかった委員長代理の五年生がとうとう切り出したのは今日の夏休み前最期の委員会になるはずの時間だった。


『…仕事がたまっているので、夏休み当日まで毎日委員会をしようと思うんだが』
委員会の時間。
いつもと同じように火薬倉庫の前に集まった四人は、円になって兵助の声を聞く。
兵助が、いかにも言いづらそうに切り出して、ええ、と声を出したのは一年生の伊助だ。
『そんなにですか?』
『…ああ。だから、申し訳なんだけど、明日も同じ時間に集まってもらいたいんだ。』
『…あと四日しかありませんが、終わりますか?』
三郎次が顎に手を置いて悩むように言うと、兵助は首を振る。
伊助の顔の部品が徐々に顔の中心に集まってきた。
『終わらないけど、私と…あと土井先生にも手伝っていただいて、やろうと思ってる。でもできるだけ夏休み前に終わらせたいから…』
『そんな!僕も手伝います!』
伊助の元気良く上げた声と手に、兵助が困ったように笑い、それをみた三郎次が慌てて『お、僕もお手伝いします』と立候補した。
兵助がますます困ったような顔をする。
仲良し委員会を目の当たりにしたタカ丸は、原因が自分にあるのを理解して、それでも、と楽しそうな方に賭けてみることにした。
『じゃ、じゃあ、合宿をしたらいいと思うんだけど!俺!』

それから話はトントン拍子に決まり、晴れて、タカ丸提案の『火薬委員会、仕事煮詰り合宿』が開催される運びになったのである。
前乗りだ!とばかりに今日から三人は、タカ丸の部屋に泊まりに来る。
もともと三人部屋用に作られたものだったので、使われてない布団があと二人分。
ちょうどいいじゃん!と手を打って喜んだところまで思い出していたタカ丸の部屋の戸を、先ほどから聞こえている足音の主が引いた。
「いらっしゃい!」
ついに合宿の始まりだ。














火薬、夏、合宿






----------------
続きなどない!(ドーン)


火薬委員が集まっているのが好きです。
火薬委員が好きです。

宮上 120518

戻る 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -