会計家族 みんな兄弟 三木視点 






左門が反抗期だ。
しかも、私だけに。
基本的に部屋からでなくなったし、出たとしても家にいることがまず減ってしまった。
学校のお知らせも私に見せなくなった。
晩御飯は外で食べてくることが多くなった。お小遣いなんかそんなにあげてないのに。
ため口なのはまぁずっとだけど、兄さんなんて呼ばれたことないけど、
にしたって反抗期だ。
小学生の下の弟たちはまだかわいいもので、私が返ってくるとおかえりー!と駆け寄ってくるのに。
左門は部屋から出ないし、私の顔を見て、あからさまに嫌な顔をする。
滝夜叉丸の弟と友達だから、お前のところもそうかと聞いたら、小学生のころからそんな感じだったといわれた。
きっとあそこは特別なんだろう。うちとは違うのだ。

反抗期は、いい。
良くないけど、でも、やっぱりそれは成長していることだから。
私は反抗期なんてやれるような状況ではなかったし、一番上の兄も反抗なんてしていなかったように思う。
ずっと前から大人で、私たちのことを守ってくれて、だから、どうしたらよいかわからない。
別に下の弟たちのようにしろとは思わない。キャラクターとか、あるし。
でも前だったら、呼びかけたら返事はあるし、一日あったことを私が家事をする横で話していた。
最後には必ず口げんかになっていたけど。
今なんか会話せずに一日終えることなんかざらで、そんなのって、虚しいと思うのだ。家族、なのに。


はぁ、とため息をつく。
晩御飯はあとご飯が炊けるのを待つだけ。今日は少し遅くなってしまった。
今日は委員会が長引いてしまったから。
雨は、少し前から降り出している。見えないが、音がするので、さっき慌てて洗濯物を取り込んだ。
兄が帰ってくるまでには少し早い。団蔵と左吉は宿題を終わらせて部屋で遊んでいる。
騒いでいるのか、二階からどたどた音がする。いつものことだ。左門は、部屋だ。
やまない雨を、カーテンをめくって確認する。兄は傘を持って行っただろうか。
今日は天気予報で何も言っていなかったから、兄にも持っていくよう言っていない。
もう少しでご飯が炊けるな、と時間を確認した時、玄関で音がした。
兄かと思ってみると、左門が靴を履いている。
「え、どこいくんだ、左門!もうご飯できるぞ」
「…」
声をかけるが返事はない。まぁいつものことだ。
傷つかないわけはないけれど。
「左門!ご飯いらないのか?」
「…」
「おい、なんとか言え!あと雨降ってるから、出かけるんなら傘を…」
諦めないでしつこく左門の背中に声をかけるが、左門も嫌がらせのように返事を返さないし、こちらをみない。
なんだか泣きそうになってくる。
左門が立ち上がって、ドアノブに手をかけた。
注意したのに傘を持っていない。
ピー、と炊飯器の音がした。炊けたのだ。ご飯を食べるかまだ返事をもらってない。
「左門!」
ガチャン、とドアが開く。
見慣れた背中が消える。私の声なんかちっとも届かないで。
戸が閉まる。
思わず玄関へ走り出して傘をつかんだ。
スリッパも何にも履けないまま。
「ばか、左門、傘もってけって…」
閉まったドアを開けようと手を伸ばすと、まだ届いてないのにドアが開いた。
驚いて目を見開くと、現れた人物も驚いていた。
兄だ。どうやら折り畳み傘でも持って行ったのだろう、特に濡れてはいなかった。
「あ、お…おかえりなさい…」
「お、おう」
エプロンをつけて、左門の黒い傘をもった私を眺めた兄は、何をしようとしてたのかわかったのだろう。
くしゃ、と隈のある目元を困ったように和らげた。
「あ、えっと…左門が、傘を持っていかなかったので…」
言い訳みたいに言って、兄を見た。
「ああ。さっきそこで会ったよ。俺の傘渡したから大丈夫だ」
「…あ、はい」
「友達に借りたノート返しに行くんだとさ。晩御飯はいるってよ」
玄関に入った兄は靴を脱いだ。
カバンを受け取ろうと反射のように手を出す。
私が聞けなかった行先まで兄は聞いていたし、一番聞きたかったことまで聞いていた。
反抗期なんて嘘だ。だって、その相手は私だけじゃないか。
「そう、ですか。」
うつむいて返事をする私に、困ったように息を吐いた兄はくしゃりと私の頭を撫でた。
カバンは渡されなかった。
今までだって渡されたことなんかないのに、どうしていつも手を出してしまうのだろう。
左門の傘を握ったままでいると、もう一度頭を撫でられた。
慰められている。だって返事がないのも口をきいてくれないのも私に対してだけだ。
兄には、ちゃんと、
「すぐ帰ってくるから。」
そういった兄は手を放して、「帰ったぞー」と二階に向けて言う。
途端、キャー、という声を出しながらどたどた弟たちが下りてきた。
兄は下りてくるのを待たずにリビングまで歩く。
いつもの光景だ。そこに左門はいないけど。私も、玄関から動けはしないけど。
「おかえりなさーい!」
「おう、ただいま。宿題は終わったのか」
「はい!」
「そんなことよりお土産はないですか!?」
「そんなことよりってなんだ」
ため息をついた兄が団蔵の頬をつねる。
ごめんなさーい、と楽しそうな声が聞こえた。
家族なのだ。家族なのに。
ゆっくり傘を置いて、リビングへ戻る。
ご飯が炊けたから、晩御飯にしなければならない。
用意するのは、五人分。
雨はたぶんまだ降っている。












彼は育つ、私を置いて

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左門の反抗期

文次郎が怖いから反抗はできないけど、三木なら許してくれる気がして反抗しちゃう左門。
左門の反抗期は一般的な時期に、一般的に来ると思う!
三木はいい子なので、左門の反抗期に振り回されます。


宮上 120416

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