現パロ  利土井 
土井きりが一緒に住んでる 土井はほとんど出ません 利吉の一人称が俺 みんな別人




これから幸せ

「今日も来たんスか利吉さーん」
「きり丸」
はぁーん、と下からの溜息。
利吉が見下ろすのはこの家のもう一人の家主、きり丸だ。
ランドセルから家の鍵を出したきり丸は、開けてくださいネ、と利吉にカギを手渡す。
利吉の手には小さいこの鍵を、欲しいなと土井に強請ったのはまだ記憶に新しい。
カチャリ
「大学生ってのはそんなに暇なんですかー」
「…今日はバイトが休みなんだ」
「うちに晩御飯食べに来るのはいいですけど、働いてるんなら入れるもん入れてほしいですよねー。」
誰に言うでもなく減らず口をいうきり丸にぐぅ、と何も言い返せなかった利吉は、彼に続いて寒い2LDKのアパートの玄関へと足を踏み入れた。
きり丸は窓を開け洗濯物を取り込みにかかり、その際適当に転がしたランドセルに利吉が躓いた。
「…土井先生は」
「せんせは今日ちょっと遅くなるって言ってましたよ、朝。あれー?知らないんですかー?恋人なのにー?」
「…うるさいな」
つまずいたランドセルをソファーへ投げ出し、憎たらしい口を利くきり丸に苦々しい顔をした。
そもそも恋人といってもこちらが押して押して押して押して拝み倒して土下座して折れてくれたようなもので、こちらが思うように土井が返してくれるなんてこれっぽっちも期待できないのである。と、利吉は思っている。
同級生のように、毎日メールや電話、イベントごとの熱い夜、なんてのは夢のまた夢なのであって、イベントごとは家族と過ごされるか気づかずスルーされ、携帯をろくに見ない彼のおかげで連絡もほとんどなし、厄介者の多いクラスを抱えてるせいで急な呼び出しもよくある利吉の恋人は、こちらが向こうに合わせた生活をしなければろくに会うこともできやしないのが現状である。
会うために押し掛ける土井の家には扶養家族であるきり丸が居座り、今や恋人と話すよりその子供と話す時間が多い日など普通の出来事である。
この子供はなかなか屈折した物言いをするがかわいらしいところもあり、何より土井がとても大切にしているので、利吉としても仲良くしておきたい立場である。
しかし子どもはやはり親に恋人ができるのは好ましくないのか、はたまた利吉という存在そのものが気に食わないのか、とげのある言い方でチクチク責め立てるように自分のほうが親密であることを匂わせ、もとから小さかった包容力がさらに小さくなり、取っ組み合いになることもしばしばある。
(ちなみにこの喧嘩を見られ、愛しの恋人に「大人げない」と一喝されたことがある。)


洗濯物を取り込み終えた子どもは次に晩御飯とばかりエプロンをつけて冷蔵庫をあさっている。
利吉はそれを見ながら、きり丸が乱暴に取り込んだ洗濯物を畳み始めた。
暇ならやれ、ときり丸にいつだったか厳しく指導され、それ以来ここに来たときは利吉の仕事になっている。
「なんなら俺が毎日教えてあげましょうかー?土井せんせのスケジュール」
「………余計なお世話だよ」
「ははっ!ちょっと考えたでしょ、利吉さん」
沈黙が長かったよ!と楽しそうに笑うきり丸はフライパンを出していて、どうやら今日の晩御飯の内容が決まったようだ。
「しょうがないだろ。ちょっと最近ほんとに会えてないんだから」
きり丸に言うのも癪だったが、図星をつかれた利吉は本当に誰かに喋りたくて仕方がなかったのだ。本当に、本当に。
きり丸を挟んでも会えていない日が続いており、二人っきりなんてもっての外で、そろそろソロプレイも限界が来ている。
だって!俺には恋人が!いるのに!
彼の名を呼んで果てた時の虚しさは誰にもわからないぞ、と首まで出かかった利吉はきり丸が小学生だったことを思い出し、ぐっと飲み込んだ。
これはもうやばい、と自分で分かっている。

「あー、もう学期末だもんなー。先生、昨日顔死んでたし。」
「そんなに疲れていらっしゃるのか。」
「うん。「誰かさんたちの成績をまとめているところだ」って言われた。そんなやばかったかなー?」
楽しそうに話すきり丸に、利吉はひそかに肩を落とす。
学校でも家でも会う機会のあるきり丸がうらやましくて仕方がない。
悔しいから言わないけれど。
「…土井先生に迷惑かけるなよ」
「いやいや、なんで利吉さんに言われなきゃなんないの」
「(俺との!時間が!減る!)…そうだが」
「あ、今日は生姜焼きだから」
畳み終わったら皿だしてね。と、ことつけるきり丸にハイハイと従った。
今日も遅いのなら、また晩御飯はきり丸と二人だろう。
もしきり丸が寝入ってしまうまで家に帰られなかったら、今日はあきらめて帰ろうか、明日1限からだし、と利吉が考えていると、きり丸がガスの火を止め、振り返った。
夕方と夜の間のこの時間は、外が暗い。
「…まぁ、俺がいなけりゃ利吉さんももっと先生と会える時間が多くなるんだろうけどさ」
「…きり丸」
「先生は、先生は子供が好きなんだよ。きっと自分の子どもが欲しいだろう」
「…」
「先生は素敵な嫁さんもらって、素敵な家族を作るんだ。これは、絶対」
「…」
「だから間違っても俺はいらないし、利吉さんも、子供が産めないんなら土井先生にはいらないんだよ」
「…」
「…」
睨むように利吉をみつめる子供に、利吉はため息をついて近寄った。
この子の衝動や抱えてるものを、利吉はうまく受け止められない。
だが毎度の用に突きつけられる嫌悪はとても痛々しく、悲しい。それが、自分自身にも向いているだろうこともわかる。
利吉はこの子供を捨てきれない。土井も、そうだ。
「けどな、きり丸。俺は先生が好きだ。だから離れない。お前も好きだろう」
「…ああ、好きだ」
「先生が好きだ。俺が幸せにする。これで万事解決だ。」
「…そんなのできない。」
「できるんだよ、小学生。ついでにお前も幸せにしてやるよ」
「…いらねぇお世話だ」
ちっ、と舌打ちした子どもが、うつむいたままキッチンを飛び出した。
彼の発作のようなものだ。
一般の幸せを知らない子どもは一般こそが幸せだと錯覚している。
幸せの形を一つしか知らないと言い張る子どもにいろんな幸せを教えてあげたいと望む、利吉の恋人に、利吉もそれを協力したいと心の底から思っている。


顔を洗ってきたきり丸とテレビを見ながら晩御飯を食べ、きり丸がお風呂に入っている間に皿を利吉が洗い、そろそろ寝ようかときり丸があくびをして、じゃあ俺も帰るか、と利吉が立ち上がると、利吉の愛しい恋人が帰ってきた。
「お帰り、せんせ」
「おかえりなさい、土井先生」
「ただい…ああ、利吉君、来てたのかなんだか久しぶりだなぁ」
「そうですね、テスト期間でしたので」
「先生、この人晩御飯もきっちり食べてったんだよ」「防犯上ありがたいよ、いっつもきり丸ひとりで危ないし、寂しくないだろう」
にっこり笑って、カバンを置いた土井はきり丸の頭をゆっくり撫でる。
利吉はチリリとうずく胸の痛みをできるだけ顔に出さないように必死になる。
「…じゃあ先生が早く帰ってこればいいじゃん」
「なんだ?今日は可愛いこというじゃないか」
ぶす、とつまらなそうに小さくつぶやいたきり丸を、にっこり笑顔をますます深くさせた(デレデレさせた)土井がにゃー、と抱きしめた。
できるだけ早く帰るようにするからなー、という土井に、離せ!と思春期の子どもは躍起になる。利吉は置いてきぼりである。
なんとか腕から抜け出したきり丸は、真っ赤な顔で素早く二人にお休み!と叫んで自分の部屋へこもってしまった。
それに顔を見合わせ二人で笑い、利吉が今度は自分だといわんばかりに抱き着いた。
「わぁ、利吉くん」
「あー、もう、先生不足で死ぬかと思いました。」
「きり丸が、いるから、ねぇ、ちょっと」
困る、というつれない恋人にぎゅうう、と一段と強く抱きしめた利吉は、それからパッと離した。
足りないし、悔しくはあるけれど、困らせるのは本意ではない。
それに少し呆気にとられた土井は頬をかいて、あ、うん。とつぶやく。
「あ、ありがと、利吉くん、きり丸みてくれて」
あ、コーヒーでも飲む?
とキッチンに立とうとする土井を手で制する。
「ああ、いえ。俺、今日はもう帰ります」
「あ…そ、か。明日も学校?」
「ええ。また来ます。…先生」
「う、ん?」
「キスしていいですか」
「え」
驚いた顔をする土井にかまわず引き寄せて、キスをする。
断られた時のショックはもう味わいたくないのだ。
久々にするキスに、歯止めが利かなくなる前に、止める。
あまり長いと、我に返った土井に殴られそうだ。
(その経験ももちろんある。)
「先生」
「は、え?」
生暖かい息を吐きながら、恋人の耳元でささやく。
土井はくすぐったそうにしながらも、引きはがそうとはしなかった。
「俺が、幸せにします」
「…きり丸もね」
「もちろんです」
利吉の考える幸せは、あの子ども込みなのだ。














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行き当たりばったりじゃだめだといういい例です。
なんにも頭に浮かべないでかいたらこんなに頭が悪い文に…
もっと掘り下げたいけれど、たぶんそんなことしないだろうなぁ。
頭の悪そうな利土井が書けて満足です。

宮上 120218

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