現パロ 高校生 作兵衛視点 いちゃいちゃしてるだけ






「だめだよ、作兵衛」
そういってやわらかく俺の腕を掴んだ三之助の顔は良く見えなかった。






人肌恋しい

夕方が短くなって、夜が思いのほか早く来るようになったこのごろ、俺はペロキャンを噛むか噛まないかで悩んだまま口に突っ込んで、三之助を待っていた。
グラウンドで走る三之助を三階から見下ろしながら、ため息をつく。
左門からはメールが来た。早く帰っていて欲しいとのことだ。委員会が厳しい左門と一緒に帰れるのは稀で、あいつは一人で無事に家についてるんだろうかと心配になる。
次の日にはけろっとした顔で会うから問題なんてないんだろうけれど。
開けっ放しの窓から入ってくる風は冷たくて、グラウンドで部活動に励むやつらは大変だなぁ、と他人事のように思った。
プァー、と吹奏楽部の楽器の音が響く。音楽に疎い俺はそれが何の楽器の音なのかはわからない。





さーっしたぁ!
と、大きな声が聞こえて、携帯から目を離してグラウンドを見ると、陸上部が各自部室に向かっていた。
終わったのか、と唇を突き出して、三之助にメールを入れる。
三年三組で、待ってる。
パチンと閉じて、窓を閉めた。
電気をつけていない教室はもうほとんど真っ暗で、グラウンドのライトだけのひかりでは教室の半分も良く見えない。
かばんを引っつかんでガリ、と口の中のペロキャンを噛み砕く。
制服の上に羽織ったパーカーが重い。
ず、ず、と靴をずったような足音が聞こえて、待ち構える。早かったな。
「さくべぇ」
がらりとドアを開けた三之助が、教室の暗さに身を引いた。
それを鼻で笑っておー、と手を上げる。電気をつけないのはもう意地だ。なんの?なんも。
「終わってから来るの早いな。」
「うん、だって着替えなかったもん」
ほら、という三之助は確かにジャージのままだった。
俺の座っている窓側までゆっくり三之助が歩いてくる。
俺たちの、二人の時間は主にこんな時しかとれないから、
「寒くねーの」
「最近暗くなるの早くなったよね」
「キャッチボールしろよ、会話の。」
「俺、球技あんま得意じゃないんだよね」
「ままならねぇな」
近寄ってきた三之助に手を伸ばすと、ゆっくり受け止められて、指を絡められる。
三之助の指は酷く冷えていたけれど、窓際に居た俺の手もどうやら冷えているらしい、三之助の顔が困ったなぁという顔をした。
「寒くないの、作。指冷えてるよ」
「お前待ってたもん」
「もっとあったかいところで待ってればいいじゃん」
「やだよ。走ってるとこ見てぇんだから。」
「照れるなー」
全然照れてなんかない声でそういうと、腕が俺の背に回った。
机の上に座った俺との身長差が大きくてつらかったけれど、素直に俺も腕を回す。
ふ、と耳元で笑った三之助がぐぐ、と腰を曲げた。
うっすらする汗の匂いに、三之助の筋肉に、ちょっとだけ嫉妬する。同じ男として。
「電気つけないの?」
「つけて欲しいか?」
「やだ」
ぎゅ、と腕の力が強まったので、次は俺が笑う番だった。
「おい、いてぇよ」
「離さないよ」
「離すなよ」
「どうしたの作兵衛」
素直だね、と三之助が大して驚いてもないような声を出すので、どうしてだろうなぁ、と返した。
強いて言うなら、深まる秋と落ちる気温と真っ暗な教室とそれでも走っていた三之助がいたからだ。
言葉にできない焦燥に駆られることはたまにある。
最近まともに左門ともしゃべれてねぇし、大学生の兄は忙しいのかあまり家に帰ってこないし、高校三年の秋だし、進路はきまらねえし。
「人肌恋しいんじゃねぇ?」
「ふ、かわいー」
どの口が。思ったけれど言うのはやめて、軽く三之助の額に頭突きしてやった。
ごめんごめんと口だけで謝った三之助の手が俺の顎に回る。瞼にキスされる。
「ん」
こいつの触れ合いはたまに高校生とは思えないような大人の空気を出すのだ。
短く上げた声に反応したのか、手は俺の後頭部に回る。
大して手入れしていない髪をかき回されて、苦笑する。なんだこれ、アダルティー。
「お前、手馴れてるなー。」
「何が?」
「や、なんだ?しぐさ、とか、こういうの。」
また口の端にキスされて、しかも軽く音とか立てられて、それを俺もなんとなく受け入れて。
あくまで密着は解かないのに、がっつかない余裕。
手持ち無沙汰で物慣れない俺は、全くなすがままだ。
「そう?わかんね」
首をかしげて、俺の首元で笑う三之助の頭を軽くなでる。
真っ暗の教室の温度はどんどん下がっているはずなのに、全く感じないのは。
「そう、だよ。なんだお前、かっこいいよなー、ん、」
次はやっと唇にキスされる。
子どもみたいなキスでもなくて、どろどろの後を引くようなやつでもなくて、唇だけ全部味わうような、やわらかさを確かめるような、キス。
そう、こういうのが。
嫌いじゃないし、むしろ好きだし、もっとして欲しいって思うけど。
「練習したからかなー」
そういって、また瞼に唇を落とす三之助の言葉に、誰でだよ、との突っ込みの代わりの意表返しをしてやりたくなった。
ぐい、と肩を押して顔だけ距離をとる。
ふふん、と笑う三之助の鼻先に申し訳程度のキスをして、そうかー、と続けた。
「じゃあ、俺もそうなるように練習してこよーっと」
時間もちょうど良かったし、そろそろ帰ろうとかばんを掴んで机から降りた。
三之助と離れたとたん教室の温度を肌で感じる。
どんどん秋が深くなっていっていて、冬が来るんだろう。
マフラーは、いつくらいからつけ始めようか。
「だめだよ」
「あ?」
俺の右腕が動かなくなる。犯人は三之助だ。
振り返る。教室はまっくらで、ちょっとの距離だってもう良く見えない。
「だめだよ、作兵衛」
やわらかく俺の腕を掴んだ三之助の顔も良く見えない。
そのままそおっと腕の中へ逆戻りする。
立ち上がった俺と三之助との身長差はそんなにないから、三之助の鼻が俺の瞼に当たる。
声も耳元で聞こえる。
三之助の声は低くて、背骨に響く。
「だめだよ、作兵衛。俺以外に、そんなことしたら、だめだよ」
骨抜きになる、ってさ。言ってたんだよ。だれだっけ。俺か?
「わかった」
そういって欲しがった末に降ってきたキスは、また大人のキスだった。












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いちゃいちゃ次富
私だけが楽しい。もはや誰これ。
結ばれた後のこういうだらけた両思い感が大好きです。

宮上 111031

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