現パロ 左門視点




僕を呼ぶ声が柔らかいのは別に藤内だけじゃない。
呆れながら僕の手を引くのは藤内だけじゃない。
仲間だよって僕のことを大切にしてくれるのも、別に藤内だけじゃない。
総評、別に僕には藤内だけじゃない。


時は夕暮れ、学校からの帰り道。
三之助は部活、作兵衛は委員会。
僕の隣に歩いているのは藤内。
寒くなってきたから、とマフラーを巻いてくれたのはすぐ上の兄だ。
俺のおさがりで悪いな、と苦い顔で笑ったのは一番上の兄。
心なしか汗臭い気がする、なんて、お得意の拳骨をいただきかねない事を考えた。
「ちょっと、あったかくなってきたね」
「…そうかぁ?」
「うん、先月ひどかったもん」
鼻千切れるかと思ったもん、と言う藤内は、きれいな紺色のマフラーをしていた。
僕の汗臭毛玉おさがりマフラーとは違って新品みたいにきれいだった。
「僕はまだまだ寒いぞ!だから今日はおでんだしな!」
「だからの意味わからないけど、いいねおでん。あったまるね」
「藤内も食べにくるか?美味いぞ」
「ありがとう。でも今日は僕が晩御飯当番だから遠慮しておく。」
「そうか」
頷いて返す。本当は来ないだろうと思って言った。
だって藤内には僕だけじゃない。
僕も、藤内だけじゃない。
「そういえばさぁ、数馬がまた行きたいって、言ってたよ」
「どこにだ?」
「ピクニック。秋に行ったじゃん、みんなでさ」
「あれか!松ぼっくり合戦の!」
「…ろ組ではそんな名前がついたんだね」
苦笑した藤内が、あれは痛かったからもうやらないよ、と言った。
確かに三之助の力任せ投球の松ぼっくりはスピードがあり痛いし、作兵衛の松ぼっくりは尖っているものが多かった。
だんだんヒートアップして、孫兵が松ぼっくりに虫を仕掛け始めたあたりで藤内がキレてお開きとなってしまった。
あれはあれで雪合戦みたいで楽しかった。
そう言うと、藤内があははと笑う。
「雪合戦も楽しかったね。途中まで」
「そうだな!」
このあいだやった6人の雪合戦も大炎上で、やっぱり最終的に孫兵が雪に虫を紛れ込ませたあたりで、泣き出した数馬をみた藤内が半泣きになりながら大声で合戦終了を合図を出したのだった。
「次は春のピクニックだね。お菓子たくさん持って行こうよ」
きれいな紺のマフラーを揺らして僕を見る藤内は、僕の友達だ。もちろん友達は藤内だけじゃない。
「そうだな、作兵衛がまたでっかいブルーシート持ってくるだろうな」
「あぁ…あれ業務用だよね、もはや」
「な」
顔を見合わせて笑う。藤内にとっても、もちろん友達は僕だけじゃない。
じゃない。けど。


「あ、兵太夫と伝七だ」
藤内の声に前を向くと、藤内の家族が2人、こちらを向いて手を降っていた。
「藤内を迎えにきたんだな!」
「そうみたい。良かった、左門の家の前で。」
「え?」
言われて驚く。確かに我が家の前だった。いつのまにここまで。
「じゃあね、左門。また明日」
藤内が手を振って、2人のもとへ走りだす。
僕にとって唯一ではない藤内だけれど、
「藤内!」
振り向く藤内に思い切り手を振った。藤内が振り返る、きれいな紺のマフラーが大きく揺れる。
「またあしたなーっ!」
僕の大声に一瞬驚いて、それからきれいに目を細めて藤内はにっこり笑った。

僕には藤内だけではないけれど、僕には必ず藤内がいるのだ。










君だけじゃないけれど








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左門と藤内
唯一では無くても欠けると困る

宮上  110912
 

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