やってるだけ 食満視点









「…ってぇ…」
はぁ、と息を吐きながら言うので良く聞き取れなくて、へばりつく横髪を軽く首を振って払った。
「…あ?」
形だけ聞き返し、ゆっくり息を吐く。
くそ、上手くはいらねぇ。
すべるたびに、なんともいえない気持ちよさが背中を走る。
文次郎の鎖骨を、れ、となめると汗の味がした。
俺の汗だか文次郎の汗だか良くわからない。
上がりっぱなしの息が生暖かいがそれもなんだかぞくぞくした。
「…い…」
「あ?」

俺の狭い部屋にはもちろんクーラーなんてついてなくて、扇風機が申し訳程度に動いている。
吹く風は俺達のせいでやっぱり生暖かくて少し不快だが今はそんなこと気にしていられない。
なだれ込んだ俺のベッドは新調したばかりでスプリングが利いている。シーツも昨日洗ったばかりでこれでもかといわんばかりのシチュエーションだった。
なだれ込んだときは文次郎も特に何にも言わなかったし、俺が上になることにも眉を動かしたがそれだけだった。
ほらみたことかころあいだったんじゃねぇか、だって俺我慢してたもん、超我慢してたもん、けっして嫌がられたらどうしようとか思ってたわけじゃないぞああ決してな!
「てぇ…」
「あん?」
あんまりにしつこく文次郎がぶつぶつ言うので、いれようとするのは一旦とめて、耳を寄せる。
ぐぐ、と体を倒すと熱を持った体があたってまた興奮した。
「い…ってえ!って言ってんだよこの野郎!へたくそが!」
ゴツ!と鈍い音を立てて俺に頭突きをかました文次郎が、もう一発俺の頭に拳を入れたので、俺はベッドから転げ落ちてのた打ち回ってしまった。
あ、やべ、萎えた。
「いでええええええええ!!!!ありえねえええ!!」
「お前がありえねえわ!なんだお前は!入るかそんなもん!痛いわ!」
はあ、と全力で殴ったせいか、もう起き上がろうともしない文次郎は拳だけ振り回してのた打ち回る俺を怒鳴りつけた。
ありえない痛みを伴う額を押さえながら言い返そうとガバリと起き上がる。
「あんだと!?ある程度がまんしろや!」
「ある程度だと!?いっぺんやってみろお前!千切れるわ!つうかあんなところに何か入れようとするほうがおかしい!」
「だから俺がほぐしてやっただろうが!あんあんよがってたくせにお前自分だけ気持ちよくなってんじゃねぇぞ!!」
「ああああああんあんなんか言ってない!ほぐれてないから痛いんだろうが千切れるわへたくそ!」
真っ赤になった文次郎が、恥ずかしさに任せて枕もとのティッシュ箱をなげつけてくる。
俺はそれを華麗に避けたつもりだったが、予想以上にさっきの頭突きが効いていたのか上手く反応できず、顔面で受け止めてしまった。
もうこうなっては、俺だって我慢ならない。
「てーめーえー」
ゆっくりベッドに向かい、寝たままの文次郎にもう一度覆いかぶさる。
焦った顔の文次郎に少しいい気分になった。
「お前はどんだけ人を焦らせば気が済むんだああ?大体この間だってお前途中まで」
「おおおおおいやめろ何言う気だお前!大体俺はなんで下なんだ!お前がすればいいだろうが!」
俺の口をふさごうとしたのか、思い切り俺の顔めがけて平手を食らわされ、仕返しとばかりに頭突きをする。やっぱり鈍い音がした。
「ああ!?じゃあお前俺があんあんあえいでよがってる姿見たいってのか!?」
「気持ち悪いこと言うなしね!」
髪を引っ張られて、引っ張り返し、ひざは俺の腹を直撃し、文次郎の頬は横に伸びた。
言い添えておくと、俺達はまだどちらも服を着ていない。
「ほらみろ下でちょうどいいだろっつか気持ち悪いってなんだお前!」
「大体あんなとこあくまで出口であって入り口じゃないんだよ!」
「なにちょっと面白い言い訳してんだ入るッつってんだろ!」
「もう痛いってんだよやめろ!」
「ああ!?大体お前が我慢すりゃいいだけの話だろうが俺はもうがんばったね!」
ぐぐ、と体を倒す。
文次郎の手が俺の肩を押し返そうとするが全然弱い。額は全然まだまだ痛むし、汗で滑ってはいらねえし、つかちょっと萎えたし、ああもう!
「ってぇ!ばか!お前噛むなっ…食満!」
「うっへぇ!おまへは、はまってはまふひてはらひひんはよ」
「く!びもとでしゃべん…いてぇ!歯ぁたてんな…!!」
どんどん弱まっていく押し返す力にのどの奥で笑って、思い切り噛んだ首筋をべろりとなめる。
はぁ、と吐く息にまた熱がこもる。うん、いい気分だ。
夕方から始めたこの行為も今じゃすっかり夜になって、電気もつけてないから部屋は真っ暗だ。
どっかの家の明かりがなんとなく窓際のベッドを照らして、裸で押し合いへし合いの俺達をぼんやり照らす。
客観的にみるとすげぇバカっぽいだろうから、余計なことを考えるのはやめにした。
体重を落とすと俺の太ももが文次郎の太ももに当たる。なぁ、もう十分じゃねぇの?
「文次郎、力、抜けよ」
耳元で言ったのが効果があったのかなかったのか、肩の力を抜いた文次郎は、代わりに歯を食いしばって悔しそうに俺を見上げる。
汗で額に張り付いた前髪がちょっとだけかわいいと思った俺は、後でこの思考回路を振り返って自己嫌悪に浸るに違いない。
「はいんねえよ…!」
「やってみなきゃわかんねえだろ。ほら。」
軽くゆすると、観念したのか、俺の肩をがしりと掴んで俺を引き寄せる。
おとなしく顔を横まで持ってくると、はぁ、とといき混じりの声でささやかれる。
「…ば、かもん」
そのあと、音がしそうなぐらい思い切り右肩に噛みつかれてしまった。


あ、やべ、なんかキた。















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もっと盛大な殴り合いにしたかったのに結局甘くなってしまった。
宮上 110720

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