三郎次編




朝起きて、ため息。
今日も、弁当はキレイに3つ並べられている。
手にとって、周りに誰もいないのを確認してそのまま元の位置に置いて、見なかった事にする。
まだ納得のいかない俺はガキとなんと言われようと、納得がいかないのだ。


「三郎次、お前またパン?」
昼休み、いつものように左近の席に久作と集まると、あきれたように左近が俺に向かって声を掛けた。
「そうだよ。今日は焼きそばパンだからやんねーぞ。」
「いるか、弁当あるし。なんか最近多くないか?なぁ、久作。」
左近の席にフリに黙っていた久作がおざなりに頷いて眉をしかめた。
「そうだぞ三郎次。お兄さんに作ってもらってるって嬉しそうに言ってただろ、ケンカでもしたのか?」
「いや、嬉しそうじゃねーよ報告したんだよあれ」
「いや、嬉しそうだったよ。」
「…別にいいじゃん。たいしたことじゃない。」
二人は俺の両親の事を知っているけど、何となく言いたくなくてはぐらかそうとすると、左近がけどさ、と卵焼きをこちらに向けてきた。
それに素直にバクッと食い付いて、何だよ、と返す。
「けどさ、お前一週間だぞ?成長期なんだから栄養偏るじゃないか。」
うるさい、保険委員め。
理由ならある。二人には話していないけれど。
一週間前にきた自称我らが兄上が、兄貴の仕事だった、弁当作りを取り上げてしまったからだ。
別にあの人のせいじゃない。悪いのは分別のつかない俺。三人で頑張ってきたのに、って思うちっさい俺。
父さんが浮気して、更に子どもまで作ってたって言うのを信じたくない子どもの俺。
あの人の作る弁当は、いろんな種類の具が行儀良く並んでて色鮮やかで、おいしそう。
でも食べられない。食べたく無い。
兄貴の変な形の卵焼きとか、しなくてもいい隠し味とか、豆腐とか、そんなのより全然美味しそうだけど、やっぱり食べる気にならない。
死んだ母親も、別に料理は上手く無かった。
その違いがますます俺たち家族との差に思えて、受け入れられないと思った。
いいんだよ、俺は今反抗期やってんだから。
焼きそばを噛みちぎって適当に返すと、納得いかない顔した二人は顔を見合わせた。
まぁ、三郎次がいいならいいけどさ。
久作がつぶやくように言って弁当箱をしめる。
良くない。良くないけど、俺はそれを上手く説明することも覆すことも出来やしないのだ。


「三郎次ー、家族の人呼んでるぞー」
クラスのやつの声にそっちを見ないまま、おー、と返事をした。
「誰?」
「しんね、弟じゃね。」
左近の問いに俺は肩をすくめた。
「どうせ今日の晩御飯何がいいか、とかだよ多分。」
「いくら初等部と中等部が近いからって良くこれるな、伊助。」
久作の驚きにくつくつ笑う。
俺の弟は確かに変な度胸があるから。
立ちあがって教室のドアへ。
でもそこにいたのは、伊助でも兄貴でも無かった。

「あ、三郎次くん!」

にっこり笑う金髪に目を見張る。
口からでたのは目の前の人の苗字だ。

「さいとう、さん」

そんな俺に構わず、あのね、とサイトウサンは続ける。
「お弁当、持って来たんだ。」
そう言って出されたのは確かに俺の弁当で、でもそれは兄貴じゃなくて、目の前の男が作った弁当だ。
ああ、どうしよう。

「あぁ、あの、えっと、
三郎次くん、お弁当忘れて行ったでしょう。
困ると思って、持って来たんだ。」

にっこり笑われる。
お弁当はわざと忘れたんです、なんて言えなかった。



どうしよう、俺はまだ、逃げていたいのに。












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