兵助編




いつものように、下2人より早くもそもそ布団を剥いで、あくびを噛み締めて起き上がる。
両親が交通事故で死んで3人になってから、俺がやると決めた家事の一つ。3人のお弁当作り。
残念ながら俺は母さんや伊助みたいに上手く作れないけれど、でも最近は俺のバイトで晩ごはんでさえ一緒に食べれる事が少なくなってきた、から。
これだけは、俺の仕事なのだ。
ぐぐっと、背を伸ばして部屋をでる。
隣の客室にチラリと目線をむけた。
昨日来た、自称俺たちの兄弟は、客室に泊まって貰った。
感情が追いつかない。
父さんの、浮気相手の子ども。
…斉藤さん。下の名前はなんと言ったっけ。
俺たちの家族になりたいと言った、彼の分も、朝ご飯を作らなければ。
まぁお弁当の具の残りだけれど。

トントンと階段を下りて一階へ行くと違和感。
台所に誰かいる。良いにおいが漂っている。
伊助が早く起きたのだろうか、それとも三郎次?
意を決してダイニングへ行くと、俺に背を向けて立っていた金髪の男が、音に気がついたのか振り返って、それから笑った。
「おはよう、兵助君」
「…斉藤さ、」
声がかすれた。
頭もボサボサだし、俺はまだパジャマだ。
いや、そんなことより、
「…それ」
指を指したのはテーブルの上に乗ったお弁当だった。
きっちり3つ分。
色彩豊かでいろんな種類の具が今か今かと待ちわびている。
俺が作るへなへな弁当より、ずっと美味しそう。
斉藤さんの背中から朝日が差して、俺が伊助と三郎次から誕生日に貰ったエプロンをつけついるのがわかった。
指を差して黙り込む俺に、フライパンを持ったまま彼は照れたように笑って言葉を紡いだ。

「あ、ごめんね、勝手に使っちゃって…その、俺、家族になりたいって言ったでしょ?
何かしたくてさ…朝ご飯、作ろうと思ったらお弁当箱が3つ置いてたから、いるのかなって…あ、冷蔵庫のなか勝手に開けちゃった、ごめんね…兵助君?」
俺と目を合わさないまま早口でまくしたて上げる彼の言葉は、俺の耳にほとんど入ってこず、目の前がグルグル、回る。
「…そう、ですか」


俺の仕事だったのに。











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