五年生 



「あぁ!」
悲痛な声を出した勘右衛門の肩を叩いたのは同じクラスの兵助だった。
「仕方のないことだ、諦めろ」
「うぅ〜…僕のお饅頭ぅ〜」
「うんうん、悲しいな」
わかるよ、とおざなりに頷く兵助にカチンと来た勘右衛門は「馬鹿!」と怒って兵助の手を振り払った。
「馬鹿!絶対わかってない!」
「…また貰えばいいじゃないか。くの一の子に貰ったんだろう?」
「馬鹿!」
もう一度言った勘右衛門は手を伸ばして兵助の額をべちりと叩いた。
それからキッと兵助を睨み、バタバタとろ組の教室へ走りこんでいった。
「らいぞーーー!!!」
「わぁ!どうしたの勘ちゃん。」
教室の戸を引いて一直線に雷蔵の懐に飛び込んだ勘右衛門はがしりと雷蔵の腹にしがみついた。
それに三郎が方眉を上げる。
「勘右衛門、雷蔵が困ってるから離れろよ」
「三郎は心が狭いね。」
それに唇を尖らせた勘右衛門がしぶしぶと言ったように離れて、それから八左ヱ門の後ろから飛びついた。
多少よろけはしたものの、おはー、と笑って受け止めた八左ヱ門に勘右衛門が嬉しそうに笑う。
「さすがハチ!」
「一年坊主で慣れてるからなー。それで勘ちゃん、どうしたんだ?」
「どうって…?どうだっけ?」
首をかしげて不思議そうに雷蔵を見た勘右衛門に、雷蔵も困った顔で笑い返した。
「どうしたんだろうねぇ」
「なんだ、騒ぎたかっただけか?」
「違うよ!」
にやりとからかうように笑った三郎に、心外だと勘右衛門が食いついたところで、ろ組の教室が開いた。
「おい、こっちに勘ちゃん来なかったか」
「兵助」
「へーすけ、いるよ」
やってきたのは兵助で、雷蔵が立ち上がり兵助を招いた。
「は!思い出した!来たな兵助この人でなしめぇ!」
ぐいー、と指を兵助に向けた勘右衛門はまだ八左ヱ門の肩にしがみついたままだ。
「お!いきなりどうした勘ちゃん」
「…勘ちゃん」
ふぅ、と息を吐いた兵助の腕を引っ張って、みんなのもとまで連れてきた雷蔵がねぇ、と兵助に問いかけた。
「ねぇ兵助。どうしたの?」
「なんか…俺が肩に手を置いたら怒って逃げた…?」
自信がなさそうに雷蔵を伺うように言うと、えぇ?と少し怒ったように雷蔵が勘右衛門を振り返った。
「勘ちゃん、何が気に食わなかったの?」
「は?いや、違うよ、え?ちょっと、兵助!僕はそんなことで怒ったんじゃない!なんで僕がそんなことで怒ったと思うの!」
焦ったように手を振った勘右衛門が、八左ヱ門から飛び降りて兵助の肩を掴んだ。
それに目を見張った兵助が首をひねる。
「?違ったか?」
「全然違うよ!兵助は何がそんなに不安なの!」
「…うん、そうかな」
うつむいた兵助に、八左ヱ門が大きい声を出して笑った。
「あーあ、兵助。勘ちゃんはいいやつだなー」
それにつられて小さく笑った雷蔵がそっと勘右衛門の手を掴んで兵助の肩から手をはずす。
「勘ちゃん、ありがとう」
三郎が、窓枠に頬杖をついたまま、ふん、と鼻を鳴らした。
わはは、と笑う八左ヱ門が兵助の頭を少し乱暴になでた。
む、と勘右衛門がうつむく。
途中から入った自分と彼らとの間を感じるのはこんなときだ。
別に不満なわけじゃないけれど、とみんなからばれないように下唇を出す。
自分だけがわからない空間が少し、さびしい。
「それで、なんで勘ちゃんは怒ってたんだ?」
三郎の声で我に帰った勘右衛門は、あわてて元の顔を作る。
「僕のお饅頭がだめになったの!」
拳を作って訴えると、兵助以外がきょとんとした。
「違うの!最後の一個だったんだよ、僕楽しみにしてたの、なのに、兵助が僕に急に声かけるからびっくりして、手から零れ落ちて、それで、しかも諦めろって!言うの!お前のせいじゃないか!」
「いや…」
「勘ちゃん…」
「あのさ…」
兵助以外が勘右衛門を宥めようと言葉を捜すと、自分の意見に賛成してもらえないのがわかって、勘右衛門は急いで兵助に向き合った。
急に自分のほうを向いた勘右衛門に驚いた兵助は顔をそのまま瞬きを繰り返した。
「兵助!お前これから僕に声を掛けるときは『声を掛けるぞ』って言ってから声を掛けてよね!」
「…え」
大きく言い切った勘右衛門に戸惑ったのは兵助だけでなかったが、八左ヱ門は耐えられなくなったのか、腹を抱えて笑い出した。
それにつられたように、驚いて口をあけたままだった他の三人もくつくつ笑い出した。
「あははは!勘ちゃん、それ意味ねぇええ!」
「な!」
「ふふふ、勘ちゃん、真面目な顔で何を言い出すのかと思えば…」
「雷蔵まで!」
むうう!とあからさまに膨れた勘右衛門は首を振ってもう一度兵助を見る。
「兵助!よく考えろよ、例えばお前が今から冷奴を食べようと手に持っていたのに、急に僕が声を掛けて驚いて落としたらどう思う!?」
もう耐えられない、と八左ヱ門がひぃーっと苦しそうな声を上げ、三郎が思わず笑いながら
「なんで豆腐を手に持ってる例えなんだよ」と突っ込んだ。
雷蔵が目の端に浮かんだ涙をぬぐいながら、ねぇ兵助、と同意を求めると兵助は笑いをやめて真剣な顔をして、苦痛そうに勘右衛門を見ていた。
「ごめん勘ちゃん、今度から『今から声を掛けるぞ』って言う」
「言うのかよ!」
鋭い三郎の突っ込みも「そうしてくれ!」と真剣に言い頷き合う二人には届かず、八左ヱ門の死にそうな笑い声と「それって意味あるのかな?ないけど勘ちゃんたちがいいって言ってるからいいのかな?」と悩み始める雷蔵とに、笑いがとうに引っ込んでしまった三郎は、思わず頭を抱えてしまうのだった。








人を巻き込む








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五年生
うーんぐだぐだ…詰め込みすぎちゃった、リベンジするぞ!
扱いにくい兵助と食い意地の張った勘ちゃんが好きです!

宮上  101217
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