「やっぱり上級生のお風呂は広いなぁ!」
しんべヱが言って、僕と喜三太は頷いた。
僕たちが楽しみにしていたのはこれだ。
委員会の後のお風呂。
食満先輩が、小松田さんに頼んでくれて、夕飯前に上級生のお風呂を炊いてもらって、上級生の大きいお風呂に僕たちをつれてってくれるのだ。
「走るなよー、滑って転ぶぞー」
そう言って僕たちを注意する作兵衛先輩も心なしか嬉しそう。
食満先輩が、一番風呂だなー、と言って桶にお湯を汲んでいた。
みんなで順番に湯船に浸かると、ばっさぁ!と大きな音で湯があふれ出していった。
周りが湯気で白い。
「いいなぁ上級生!いっつもこんなお風呂に入ってるのかぁ」
「先輩先輩、ナメクジさんたちもお湯につけちゃだめかなぁ?」
「やめとけ喜三太。死んじまうぞ」
「うわっ!やめてよ喜三太そんな事言うの、想像しちゃった」
「さ、さぶいぼが…」
「平太…湯船に浸かってるのに…」
僕たちがわいわい言っているのを、一通り眺めていた食満先輩が、わははは、と大きな声で笑った。
それに人一倍びくっと肩を揺らした作兵衛先輩が固まってしまい、喜三太がもー!と怒った。
「先輩!急に驚くじゃないですかぁ。どうしたんですかぁ?」
「いや、上級生の風呂でこんなに楽しそうなやつらはなかなかみないな、と思うとなんか新鮮でな」
「そうですかぁ?」
「食満せんぱーい、作兵衛先輩固まっちゃいましたー」
しんべヱがつんつん、と作兵衛先輩をつつくけれど、あんまりにも驚いた先輩はやっぱり体がほぐれないみたいで、それにちょっと傷ついた顔をした食満先輩が「作兵衛…」と遠い目をした。
「せんぱーい、そんなときは、あれやっちゃいましょうよぉ!」
「やっちゃおうやっちゃおう!」
「や、やろう!やろう!」
喜三太が楽しそうにハーイ!と企画して、それにしんべヱが乗るので僕も精一杯手を上げた。
僕が一番食満先輩に近かったからか、食満先輩が、僕の頭をなでて、それから「おう!」と怪しく笑う。
「よし!みんな出ろー!」
食満先輩の合図で、僕たちは湯船から出て、洗い場に行く。
急いで自分たちの手ぬぐいを石鹸で泡立てて準備万端だ。
食満先輩が、固まってる作兵衛先輩を引っ張り出して、僕たちの前へ連れてきてくれると、作兵衛先輩が、手ぬぐいを持って構えた僕たちを目の前に「え?えぇ?」とうろたえる。
それを尻目に、食満先輩が楽しそうに僕たちに出撃命令をだした。
「よし行けお前たち!作兵衛にごしごし攻撃だー!」
「「「やーっ!」」」
「ぎゃーっ!」
叫ぶ作兵衛先輩に、僕たちは泡だらけの手ぬぐいを持って先輩に体当たりして、ごしごし体をこする。
「わは、は、やめろーっ、くすぐってぇ…あはははは!」
作兵衛先輩がくすぐったがるけどお構い無しだ。
先輩が笑えば笑うほど、僕たちも楽しくなってきて、もう、作兵衛先輩をごしごししてるのか、喜三太なのか、このぽよぽよはしんべヱなのか、めちゃめちゃになってきてみんなで笑いながらごしごしする。
そのうちこの攻撃になれてきた作兵衛先輩が、自分の手ぬぐいも泡だらけにすると、僕たちを攻撃してきた。
「そら喰らえ!富松ごしごしだー!」
「やーっ!」
「あはははは」
作兵衛先輩は、やっぱり三年生だけあって力が強いから、器用に僕たち三人を平等にごしごしこする。
わーっと先輩から逃げると、それをニコニコしながら見ている食満先輩が目に入って、よぉし!と僕も手ぬぐいを握り締めて食満先輩へ体当たりした。
「食満先輩っ覚悟ーっ!」
「おわー!わははは!」
まさかくるとは思ってなかったのか、食満先輩は笑いながら僕を受け止めて、しりもちをついた。
それに目をつけたのか、後ろから作兵衛先輩がすっごく楽しそうな声で「平太に続けー!」と言って、喜三太としんべヱと作兵衛先輩が僕と食満先輩に向かってきた。
それを全部楽しそうに笑いながら食満先輩は受け止めて、そこからもうなにがなんだか洗いっこ大会で、僕は背中もお腹もきれいにこすられ、僕もみんなをがんばってごしごしして、喜三太が笑って、作兵衛先輩が食満先輩につかまって笑い転げて、それはしんべヱの「もう無理ですぅ」と言う弱音が出るまで続いた。




「十まで数えろよー」
「はーい」
食満先輩が言って、僕たちは元気に数え始める。
笑いつかれて、ちょっと湯あたりしてきた僕は、目が半分閉じたまま、喜三太としんべヱと一緒に数え始めた。
二人はさすがは組と言うべきか、けろっとしながら大きい声で数を数えている。
僕はもう大きい声をだすのもしんどい。
頭をちょっと揺らすと、食満先輩がぐい、と僕を持ち上げて、湯船の外に出した。
「わぁ!」
びっくりして食満先輩を見ると、髪をおろしている先輩が頷いた。
「平太は終わり。先に脱衣所行ってていいぞ」
「あ、ありがとうございます…」
助かった、とよろよろ出口に向かうと、後ろからええーと不満そうな喜三太としんべヱの声が聞こえた。
でもそれに返事も反応もできないくらいよろよろしていると、不意に、ふわっと視界がちょっと高くなって、持ち上げられたのだとわかった。
「おい、大丈夫か平太」
「あ、作兵衛先輩…」
「ちょっとはしゃぎすぎたもんな」
そう言って困ったように笑った作兵衛先輩は、僕を抱えあげたまま、食満先輩に「俺も先上がりますね」と言った。
「おう、頼むな作兵衛」
「ええー!平太と先輩だけずるいー!」
「僕も上がりたーい!」
「だめだ、お前たちは数え終わるまでな。ほら、もっぺん一からだ、せーの」
ひーい、ふーう、と面倒そうに、でも楽しそうに数える喜三太としんべヱの声の聴きながら脱衣所に着くと、作兵衛先輩が軽く体を拭いてくれた。
「ぼ、僕、自分でできます…」
「いいから、ほら。」
もういちどくすりと笑った作兵衛先輩は僕に寝巻きを着せると畳の上に寝かせてくれて、それから自分もすばやく着替えて、どこから持ってきたのか、扇子で僕を扇いでくれる。
「ありがとうございます…」
「のぼせたか?平太、体温低いからな」
次からもっと早く上がろうな、と言った先輩に、でも!と起き上がろうとしたら、寝とけ、と押さえられる。おとなしくもう一度畳に横たえて、
「先輩、先輩」
「ん?」
「でも、楽しかったです、とても」
そういうと、作兵衛先輩もにっこり笑って、また僕の頭を優しくなでてくれた。
作兵衛先輩も、食満先輩も、僕をよくなでてくれる。
「そうだな、俺も楽しかったよ」
それ、食満先輩にも言えよ、喜ぶから、と言ってくつくつ笑う作兵衛先輩の声と、扇いでくれる風が心地よくて、僕は意識を手放した。



次に意識が戻ったのはゆらゆら体が優しく揺れているとき。
別の体温が近くにあってまた誰かに抱えてもらってるな、と気がつくと上から声が降ってきた。
「起きたか、平太。」
低い声で、優しい声。
廊下の床までの距離が遠い。
顔は見えないけど、わかる。
「けませんぱい…」
「無理させたな、気持ち悪くないか?」
心配する食満先輩の声が体に直接響いて、気持ちい。先輩の体温は、は組の二人や作兵衛先輩みたいに高くない。
また遠のきそうな意識を何とかつなぎとめて、声を出した。作兵衛先輩に言われたんだもん、
「せんぱい…」
「ん?どうした」
「今日、お風呂、すっごく…楽しかったです」
「…そうか」
「はい…また、みんなで…入りたいです…」
「そうだな」
くつくつ笑う食満先輩の笑い声は、作兵衛先輩よりも随分低くて、様になっていた。
「今日はもう寝といていいぞ」
そう言って僕の背をぽんぽんとリズムよく叩くので、僕は先輩に部屋まで運んでもらいながら、寝てしまうことにした。








僕の好きなこと






委員会のみんなでの、お風呂。





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用具委員会のお風呂話

3ろの喧嘩の話で書いた仲良し用具の掘り下げ。
私…寝オチねた多いな…

食満はとても変態だと思っています私。イヤいい意味で!


宮上 101213 
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