「ついたぞ」
左門の三人部屋の前について、立ち止まる。左門もそのまま立ち止まったが声を掛けてもやっぱり、うつむいたままだった。
いい加減、私もいい先輩をやっているのに疲れたので、舌打ちをしたら、目の前の障子が開いてひょうひょうとした次屋が目を見開いた。
「ぉ、あ?えーと…あ?あ、左門」
私の名が思い出せないのか、次屋は指を数回揺らした後、左門に気づいた。
左門が反応して、顔をあげる。
「左門?」
たずねる次屋に首を振った左門はそのまま私の横を通り過ぎ、次屋の腰にへばりついた。
それを見下ろした次屋は首をかしげて私を見るので、私はゆるく首を振った後、肩をすくめた。
「どうしたんすか」
「わからない」
そういうと次屋が、とんとん、と左門の肩を叩く。
肩を揺らす左門に次屋が声を掛ける。
「さーもーん。どうした?顔上げて、ほら」
「…さんのすけ」
ゆっくり顔を上げたその顔に不思議そうな顔をした次屋がもう一度首をかしげた。
「左門?さくー、左門が」
次屋が部屋の奥を振り返ると、「あ?」とガラの悪い声が聞こえて富松が現れた。
「あれ、田村先輩?」
首をかしげる富松に、横の次屋が小さく「そうだ田村だ」とつぶやいた。
だから嫌なんだ、左門の友人はやはり左門の友人だ。
先輩の名前くらい覚えたらどうなんだ。一年ほど多くないぞ、四年生は。
富松が口を開いた。
「どうしたんすか、早いっすね、今日」
「あぁ、左門が…」
「え?…あ。」
目線をおろすと、それにつられた富松が次屋の腰をみて、気がついた。
なんとなく、まぁこれで私の役目は終わっただろうと思った。
富松が優しく左門の肩を叩く。
「左門、どうしたんだ?」
「さくべえ、さくべえ」
「うん、どうした?」
そう言った富松に、がばりと勢い良く次屋から顔をはなすと、今度は富松に抱きついた。
次屋と違って身長差があまりない二人なので、首にしがみつく、という表現がしっくり来るようだ。
その突然な行動に、受け止めきれず、おわぁ!とよろめいた富松を、後ろから次屋がそっと受け止めた。
三人がぎゅ、とあつまる。
「大丈夫?作。」
「あ、あぁ、わり、ありがと」
富松が左門をそのままに肩越しにお礼を言うと、次屋がきゅい、と目を細めた。
そのしぐさにため息が出そうになる。次屋の嬉しそうな顔を見るのは初めてだ。
その珍しい表情もすぐ元に戻ってまた能面のような顔になったのだが。
「おい、さーもー。どうしたんだよお前はもう…黙ってちゃわかんねーぞ?」
そう優しく左門に声を掛ける富松の声も、聞こえてるだろうにだんまりを決め込む左門。
富松はため息を一つつくと、ぽん、と頭に手を置いてから左門をそのままに部屋の置くに入っていった。
まぁ、左門が首にかじりついているので引きずっていった感じになってしまっているが。
それをどうしようもできないまま眺めていると、障子近くにいた次屋が私のほうを見たので、私も次屋を見る。
あまりない身長差に少しガッカリする。何だこいつ、大きいな。滝夜叉丸なんて抜かれているんじゃないか、背。
「先輩、わざわざ左門を送ってくださってありがとうございました」
「え?あ、ああ、いや。あいつ全然集中しなくて役に立たなかったから…」
「そうですか、すみません。」
素直に頭を下げられて拍子抜けする。何だこいつ。こんなやつだったか。
次屋が心配そうな顔で部屋の奥を見るので、私も「じゃあ、」と声を出した。
「じゃあ、わたしはこれで」
「あ、はい、すんません、ありがとうございました。」
「ああ。明日も委員会があるから、いけそうなら連れてきてくれ」
「はい」
頷いたのを確認して踵を返すと、障子がしまる。
最後にちらりと見えた左門は、座る富松にまだかじりついたままだった。
なんだか左門の素の部分が見えたみたいで嫌だった。

全部が違和感だらけ。
迷子組み、でくくられている三人が、調子の悪い左門のためにあんなふうに大人の対応をするのにも違和感、なんにもできなくて二人に任せるしかない私にも違和感。
そしてそれが少しだけ羨ましいかもしれない、と思ってしまう自分自身にも違和感。
今日はせっかく早く終わったけれど、この違和感が邪魔をするので、たか丸さんに会いたいと思った。
あの同級生なのに年上で、何考えているか良くわからないのに包んでくれるような、そうでないような、ぬるい感覚にとらわれたい気がした、今は。
その場には、綾部と、それから滝夜叉丸がいればいい。きっとまだ三人とも起きているだろうし。
そう思うと足が自然に早く動いて、少し早めの私の足は、三年の長屋の廊下を後にした。










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