現パロ  靴紐が結べない左門











こまごましたものが嫌いだ。
繊細なものは苦手だ。
仕方ない。
いや、仕方なくない。
そういうわけで、今、玄関口でしゃがみ込み唸っている僕は、靴紐と格闘していた。

昔からそうだった。
僕は細かいことや繊細なものが苦手だった。
別に大ざっぱな訳ではない。
丁寧なのは丁寧だから。
ただ、得て、不得手でいうと不得手で、昔からそれを家族もわかっていたから、僕には紐を結ぶタイプの靴を与えず、ゴムやマジックテープのまぁなんていうか、僕向きの靴を買い与えていた。
それがなぜ、こんなものに足を通しているのかと言うと、我が友、三之助が、靴紐の格好の良い靴を、格好良く履きこなしていたからだった。
走り出す前にきゅ、と紐をきつく結ぶ三之助は、何となく僕の知っている三之助ではなくて、ムズムズした。純粋に、羨ましいと思った。
靴紐の靴を履く三之助は、随分大人びてみえたのだ。
そういえば作兵衛も随分昔から靴紐の靴を履いていた。
そう思うとなんだか一人だけずっと大人になれないままな気がしたのだ。
頼んで買ってもらった、どこかの知らないメーカーの靴は、微妙に僕に馴染まない。
けれど満足感はある。
だがしかし、結べない。

うんうん唸ったまま玄関口に座っていると、お節介な兄がリビングのドアから顔を覗かせた。
「おい、さもーん、何をやっているんだ。友達はもう外で待っているぞー」
「知っている!!」
それにおざなりに返して、もう一度、結べる様子のない紐に目を落とした。
あの兄はお節介な上に人を馬鹿にするので頼りたくない。
というか、こんな事で頼りたくない。
むんむん唸る。
朝の時間は短い。
玄関のドアの外には作兵衛と三之助が待っている。
だと言うのに靴紐は一向に動きを見せない。
当たり前だ、僕自身がもう触ることすらやめてしまった。

大きいあくびと共に、二階から誰かが降りてくる音がして我に帰る。
きっと弟が起きて来たのだろう。
やばい。このままでは遅刻をしてしまう。
そう思って顔をあげると、「おい、左門!」とじれたような兄の声が聞こえた。
ええい、うるさい!
もういいわ!
ガバリ、ガバリと靴から両足を抜き、荷物を勢い良く背負い、片手で先ほど脱いだ新しい靴をつかんで、大声を出してドアを開けた。
「行ってきます!」
閉まる少し前に、眠そうな弟の声で行ってらっしゃい、と聞こえた。




「作兵衛!」
「左門!お前おっせぇよ!」
「はよ、左門」
ドアをあけると待っていたのは、作兵衛と三之助で、やっぱり2人とも靴紐のついた靴を履いていた。
作兵衛の靴は、彼の兄のおさがりらしく、随分くたびれていたが、それがまた大人っぽくみえる。
「作兵衛!靴!」
ぐい!と片手に持った、新しい靴を作兵衛の前に突き出すと、作兵衛が、はぁ!?と首を傾げた。
三之助が、ぼんやりした声で言う。彼もリュックを背負っていた。
「あ、新しい靴じゃん左門。」
「あぁ、そうか、そうだな」
頷いた作兵衛は、そんで?と続きを促した。
「それで、それがどうした?」
つか早く履けよお前、と呆れた声を出す作兵衛の手をとり、自分の靴を置いた。
結局、僕は彼を頼る。
「靴紐が結べない」

「知らねえよ!」
持った靴をそのままに嫌そうに怒鳴る作兵衛の隣で、三之助が笑った。
「馬鹿だな左門。じゃあなんで靴をそれにしたんだよ」
「む!」
思わず詰まると、もー!と作兵衛が僕の足元にしゃがみ込んだ。
「ほら左門、とりあえず右足上げろ」
言われるまま、導かれるまま、靴に足を通すと、よくみとけよ、と言われ、作兵衛の手が魔法のように動いてしゅるしゅると器用にりぼんが出来た。
最後に足の甲をポンと叩いて、作兵衛が笑う。
僕の口は閉まらなかった。
「ほい、完成。ほら、左は自分でやってみろ」
「おぁー」
「おおー」
三之助と一緒に歓声を上げて、いざ取り掛かる。
作兵衛はどうやっていたかしら。
たしか、先にこっちを輪っかに…………
うん?
いやいや、こうだろう、それでもう片方を……………
おう?
いやだからここで長い方を………
あん?
いや………はん?
…………
「作兵衛ぇー」
とうとう声を出して助けを求める。
紐がぐちゃぐちゃに絡まって、だから嫌いなのだこんな細々した作業。
「もー、お前は…どうしたらこんなになるんだ」
ため息をついた作兵衛は、それでもしゃがみ込んで直しにかかってくれる。
ひざまずいた作兵衛の肩に手を置いて靴紐をみていると、やっぱり魔法のようにりぼんがあっという間に出来上がっていった。
「ほら出来た。学校から帰る時もっぺん教えてやるから」
「出来る気がしないぞ!」
拳を握って言い切ると、作兵衛ががっくり肩を落とした。
「何言い切ってんだよ…」
「じゃあ左門これからその靴諦めんの?」
目を数回パチパチした三之助が不思議そうに僕に尋ねる。
三之助のくたびれたスニーカーがジャリ、と音を立てた。
そういえば、三之助のスニーカーも作兵衛と同じくお下がりだと言っていた。
僕の靴だけが、不自然に新しい。
「これからも作兵衛に結んで貰うから大丈夫!」
肩をすくめて言うと、三之助と作兵衛がぽかんとして口をあけた。
それから作兵衛が肩を揺らして可笑しそうに笑う。
「それだと、俺がいねえとお前家から一生でらんねぇよ」
「どうせ一緒の所に行くんだから問題ないぞ?」
変なことを言う作兵衛に首を傾げると、きょとんとした作兵衛の顔が横に広がって、僕の好きな笑顔になった。
「はは、そうだな」
そういう作兵衛にそうだ!と頷くと、おぉーいと三之助が不満そうな声をあげた。
「え、何これ、俺ってば空気?やめてくんない、仲間外れは」
「なんだよ仲間外れって」
呆れて笑う作兵衛に、それでも不満げな三之助は唇を尖らせた。
「左門ばっかりずるーい、はい、作兵衛、俺も結んでください」
「は?お前キレイに結べてんじゃねぇか」
「解くから!」
「意味あんのかそれ…」
必死な三之助にため息をついた作兵衛は、しょうがないと三之助の手首を掴んだ。
「よし、行くか」
作兵衛がそのままくるりと方向を変えたので、僕もそちらを向いた。
作兵衛に結んでもらったおかげで、僕はもういつでも出発できる。
「おう!行こう!」
片手をあげて先陣をきると、ばか、そっちじゃねぇよと声がかかった。
振り返って僕の靴紐に魔法をかけた作兵衛の手をとる。
「え?俺結んで貰ってない!作兵衛!」
「うるせぇな、我慢しろ!」
後ろでごちゃごちゃうるさいけれど、細かいことが嫌いな僕は、作兵衛がする方向指示以外の声は耳からシャットアウトした。
さぁいざ行かん、憧れ大人靴の第一歩!




大人の靴














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左門と靴紐

ここにでた左門の兄は三木で弟は団蔵のつもりで!きっと文次郎も左吉もいるよ。
一生一緒にとか絶交だとかを簡単に何も考えずに何も背負わずに言える年頃の話。




宮上 100830 
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