「怪士丸、いるー?」
「きり丸?いるよー」
随分暗くなってしまった空のした、廊下を渡り、図書室に来たきり丸が戸を開くと、火の近くにいた怪士丸に声をかけるとボアッと怪士丸が浮かび上がってきて、思わずきり丸は思わずのけぞった。
「うわっ」
「…うわってなに」
「い、いや、なんか…火の明かりだけで見るろ組みって怖い」
「…そんなにはっきり言わないで」
「わ、わりー…やるか」
「うん。ごめんね」
「いいって、気にすんな」
もう一度謝る怪士丸に頷いたきり丸は、破れたのんだして、と促した。
「きり丸がね、来るまでにちょっと見てみたんだけど、漢字だらけでもう何がなんだか」
習ってないのが多すぎるよう、となきそうな怪士丸に、ええ、ときり丸は声を上げた。
机の上に並べられた本だったものを見ると確かに知らない漢字の羅列ばかりである。きり丸はため息をついた。
「ううー、目次とかから始まるじゃん、本とかさ。なかった?」
「あ、そうだね!…これかな?」
怪士丸が持ち上げた紙は確かに見出しに『目次』と書いてあり、いくつかの見出しが書かれていた。
「それだよ!その漢字がおもに書いてあるやつをさ、順番に並べてけば何とかなるぜ、きっと!」
「そうだね!きり丸、頭いい!」
さっそく二人はその作業に取り掛かる。
だがしかし、見だし順に大体こんなもの、と四つの塊に割ったがいいがそこから進まない。
うーんうーんと二人でうなる。
「なんかこう…雰囲気でつなげようか」
真剣な顔をしたきり丸が適当なことを言うので、構えて聞いていた怪士丸はのけぞって驚いた。そしてあきれた声を出す。
「何を言うのかと思ったら…まぁきり丸の感ってあたりそうだけどさぁ」
「だろ?」
「そんなやり方で中在家先輩の目を欺けるとは思えないな」
「まぁ俺もそれは思うけど…え?」
きり丸でも怪士丸でもない声が聞こえて、きり丸は思わず顔を上げて、怪士丸を見る。
怪士丸も声は聞こえたようで、おろおろしながら顔を真っ青にしていた。もっとも普段との違いがいまいちよくわからないが。
怪士丸が首を振る。
「え?いやだ、僕何にも言ってないよ」
「え?なんだ?誰だ?」
「お前らだけでやろうったって、やっぱり無理だったんだな。」
ぼう、と図書室の入り口にもう一つの灯り、とともに現れたのは久作だった。
あからさまにほっとする怪士丸とは反対にげぇぇ、ときり丸は舌を出して肩をすくめた。
それに久作が眉をしかめながら図書室に入ってくる。
「何だその反応は」
「だーって先輩驚かしといて、昼とおんなじ登場の仕方なんですもん」
「…何が悪いんだ」
「いや悪いって言うかもうちょっとひねってほしかったって言うか」
「お、ま、え、は、えらそうにー!」
俺にどうしろって言うんだ!!とムキになる久作に、怪士丸があわあわと間に入ってなだめる。
「先輩先輩、来てくれて嬉しいです、僕たちだけじゃどうにもならなかったから…」
ね、きり丸!と真剣な怪士丸に押されて、きり丸はこくんこくんと頷いた。
「そーっすよ、いやー良かった、これであと先輩にやってもらえれば終わりッす!」
「おまえなぁ…」
「きり丸!!いやいや、あの、先輩、違うんです、きり丸はちょっと手伝ってほしいって言いたかっただけで、その」
「それがどうやったらそんな言い方に歪曲されるんだ…」
まぁいい、と手を上げて首を振った久作はきり丸と怪士丸の向かいに座った。
「先輩方には、お前らのこれのこと、言ってないから。日が出るまでに終わらすぞ」
「え!そんなかかりそっすか、これ!」
俺、明日午前中から裏裏山までマラソンなのに!徹夜!?と悲痛の声を上げたきり丸に、ますます嫌そうな顔をした久作があのなぁともう一度首を振る。
「ちょっとみてわからないのか?こんな難しそうな内容、俺でも習ってないものばかりだぞ、これは時間がかかる」
「や、やっぱり…!!」
ひぃぃい、と声を上げた怪士丸に、二人はびくっと肩を跳ねさせ、怪士丸を咎めた。
「怪士丸、あんまり高い声出さないでくれよ…こえぇって、夜中なんだし」
「ごめ、なさ、僕のせいで…!」
ますます真っ青な顔をした怪士丸が、土下座をせんばかりに謝ると、きり丸が、まーた謝るぅーと唇を尖らせた。
久作は鼻から息を出し、器用に肩眉を下げて見せた。
「いーよもう、怪士丸は気にしすぎなんだって」
「きり丸の言うとおりだ。ほら、やるぞ。これだろ?」
「そうっす。四つには分けたんですよ、ほら、目次どおりに。」
指をさして説明するきり丸の声を真剣に聞く久作。二人の怪士丸を攻める様子のなさにちょっと拍子抜けした怪士丸は、それでも罪悪感と情けなさでいっぱいになった。
せめて僕のできることをしよう、と泣きそうになった自分を叱咤し、唇をかんで二人の話し合いに参加する。あとで、もう一度ちゃんとお礼を言わなくちゃ、と心の中で頷いた。








「…まぁ、結局一、二年生じゃこんなもんスよね…」
きり丸の情けない声とともに、三人はそれぞれ机に突っ伏した。
やはり久作の知っている漢字と推測だけで進めていくのは無理があり、十数枚ほど、順番や場所がわからないものがでてしまった。
にんともかんともどうしようもできず、挙句の果てに、普段眠りについているはずの時間のせいでどうしようもない眠気が襲ってきている。
「…あとどれくらい残ってるんだ、怪士丸」
「ええと、あと十数枚です…」
「…そうか」
「あー、だめです先輩俺超眠い」
「俺もだ」
「…僕もです」
「というか三人もそろっていて、どんな内容かもさっぱり検討がつかない本なんて…お手上げだ…」
久作が弱弱しく声を出すと、いつもならからかうきり丸も同意の声を上げる。怪士丸はもうまぶたが大分落ちてきて、なかなか上にあがろうとしない。
意識が朦朧としてきて、二人の声を聞くのも夢見心地だ。
こんなんじゃいけないと目を必死にこするがそれでも一度低位置まで下りてきた瞼は上がろうとはしなかった。
「んんー…」
唸ると、気遣わしげに久作が声をかける。久作は、なんとかもう一度余ってしまった内容に目を通していた。
「怪士丸、ちょっと休んでるか?」
「いいえ、大丈夫、です…」
「大丈夫って、怪士丸目をつぶったまま言ってるから説得力ないぜ」
「きり丸、お前も瞼、半分以上おりてるぞ」
「そういう先輩だって頭ぐわんぐわん動いてますよ」
「…気のせいだ」
「気のせいってあんたね…」
怪士丸の意識は、眠そうなきり丸の苦笑の声を聞いた後に途切れてしまった。














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