現パロ  もんじ視点






ヘッドフォン

食満が一人暮らしの俺の部屋へ来るようになったのは、いつのことだったのか忘れた。
はぁ、とため息をついて立ち上がる。
貧乏学生の俺たちは、缶ビールでさえ買うのを考えなければならないのに、それでも優しい俺は冷蔵庫から発泡酒を取り出した。
「飲むか」
ひんやりしたそれを突き出すと、短く頷いた食満が手だけを伸ばしたのでつかませた。
冷たい、とつぶやいた言葉はシーツに埋もれて少しくぐもった声になっていた。
ごくり、のどがうなる。
五月の終わり、夏の中旬のような暑さにノックダウン寸前の体が飲み物に歓喜した。
はぁ、息が吐ける。体中ざわざわする。
ぼんやりベッドにもたれかかって上を見上げると、切れかけの電球に気がついた。
そろそろ買いにいかなけらばならない。
「文次郎」
顔だけそちらに向けると、えらそうな態度でこちらに軽く手を伸ばし、「手持ち無沙汰だ」と言った。
前髪がうっとおしそうだなと思ったが言わなかった。この間言ったら俺のアイデンティを突っ込むなと怒られたからだ。
「なにもないが」
「嘘付け」
俺、こないだのん読みかけだったんだよ、と俺が実家から唯一持ってきた漫画の名前を挙げたのでそこの本棚にあるとあごをしゃくった。
それに慣れたように手を伸ばして本棚に触れる食満を一瞥して、やりかけのレポートに取り掛かる。
ああ、暑い。クーラー、いくらぐらいするんだろうか。
しばらく続く、無言の部屋に、しゃかしゃかと音漏れがする。
食満を見ると、つまらなそうに漫画を読みながらヘッドホンをかけていた。
今更音漏れごときで怒りはしないが、二人しかいない部屋に一人がヘッドフォンで自分の世界ってどうなんだ。
所詮、繰り返すが貧乏学生。ワンルームしかないこの部屋で、完全に空気を分けられていると思う。
別に、これが初めてのことじゃない。少し前ぐらいからこうして、食満は俺の部屋にいるのに自分の部屋にいるように振舞うときが増えた。
自分の世界に入ってしまって、そうなると俺はもう必要なくなってしまう。本人にはいえないが。部屋には俺のペンを走らせる音と、食満の漫画をめくる音、それからヘッドフォンから聞こえる、音漏れ。
何をきいているんだ、とか、そんなことは聞かないし、別に聞かないし、興味もない。
ただ、同じ部屋にいるのにとか、思わないでもないだけだ。どうせ聞いたところでわからない、あいつの趣味にいたっては、俺は本当に良く知らないものが多いのだ。だからと言ってどうすることもないが。

先日、ポロリと伊作にヘッドフォンの話をしたら、驚かれた。
曰く、『留さんがそこまで気を遣わないのって、珍しすぎるよ』
それに俺はなんと返したんだったか。多分、たいしたことない。
そうかよ、とか、しらねぇよ、とかそんなとこだ。
発泡酒を手に取ると思いのほか缶が軽かった。振ってみると、量はあと少ししかなさそうだ。いつの間にこんなに飲んだのだろう、さっきからレポートは進んでいないのに、ふと振り返ると食満の横には読み終わった漫画がさっきより二冊ほど増えていた。
いらんことをうじうじ考えすぎたようだ。
少しだけ残った発泡酒を全部飲んで、伸びをした。
部屋が暑い。開け放した窓からは風も入ってこない。もうそろそろ虫も鳴くだろう。
集中などできやしないと、レポートをたたんでかばんにしまいこんだ。
集中はできないがなにかこう、そわそわする。
部屋は暑いし風も入ってこない。食満はいるが聞こえるのはページをめくる音とヘッドフォンのしゃかしゃかという音漏れだけ。
そわそわする。さっきの食満の言葉を借りるとしたら、「手持ち無沙汰だ」だ。
俺のベッドを独占する男を振り向くが、漫画に夢中なこの男はこちらに反応せず、顔を近づけたがやはりぴくりともしなかった。
なんとなくイライラして、立ち上がって男を見下ろす。
それでもやっぱりぴくりとも反応をこちらに示さなかった。
左足を上げる。蹴ってみたらどうなるだろうか。怒るだろうか。怒るだろう。
そう考えている間に食満の横っ腹へめがけて足を思い切り下ろす。
ぐにゅり、と肉を押す感触がした。これは手加減したと言えど痛いかもしれない。
「…ってえな!!てめえ!!いきなり何すんだこのやろう!!」
案の定怒り出した食満は、足が振り落とされた横っ腹を押さえて俺を悔しそうに見上げた。
少し気分が良くなった。
食満の手からは漫画が離れている。
「別に」
「意味なく蹴ったのかてめえは!!」
ますます怒鳴る食満の耳に、それでも離れないヘッドホンに誘われるまま俺は顔を落として、片方のヘッドフォンを持ち上げて耳に直接吹き込んだ。
食満の髪があたって顔がちくちくした。
「お前のヘッドフォンの音漏れが気になった」
そういっただけなのに、何に煽られたのか、馬鹿な男は乱暴にヘッドホンをはずしたかと思うと、そのまま俺の後頭部に手を回して、
ぐい、と俺のベッドに引きずり込んだ。

















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ヘッドフォンと食満。
現パロのもんじってなんかやらしいと思う。

宮上 100521

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