(こへ)滝←次







「さぁぁあんのすけぇぇええ」
スパーンと開いた戸に呆然と見上げた俺たちの目の前に現れたのは俺の先輩だった。
作兵衛と左門が俺を見ているのに気がついたけれど俺は知らない振りをした。
「なんなんスか…」
「いた!三之助。私は今日ここで寝るからな」
そういって仁王立ちした滝夜叉丸先輩の後ろに満月が見えていた。
またかよ…
とつぶやいた俺を無視したまま先輩がすっと入ってきて俺の布団の上に立った。
「三之助の布団はこれか?」
「そうですけ…いや帰ってください!!俺たち今から寝るんですから」
大声をあげると自分で持ってきた枕を投げつけられた。
「うべっ」
「うるさいぞ、もう夜なんだから。ほら、お前たちも私に遠慮せず寝るがいい」
作兵衛たちに手を振った滝夜叉丸に「おいぃ!」と怒鳴るのに聞いてもらえず、俺の枕をくさいといった先輩はすごすごと布団に入ってしまった。
聞けよ!と怒鳴る俺に、とうとう空気と化していた作兵衛が俺に近寄ってきて、こそっと耳元で「俺ら孫兵のとこ行っとくわ」と言った。
「え!いいよ作、気にするな、ちょっと先輩まじで出てってくださいって!」
あせる俺に作兵衛は首を振って、肩まである髪がぱさりと音を立てた。
「いいよ、多分この調子じゃどうしようもねぇだろうし。おい左門行くぞ!」
そう言って立ち上がった作兵衛は俺が止める間もなく左門を立ち上がらせた。
「左門、枕持ったか?」
「あぁ…あ!そろばんも持っていくか?」
「持ってってもいいがお前孫兵の部屋でいつ使うんだ」
10kgあんだろ、と言う作兵衛に左門が毒虫よけだ!と言い切って、作兵衛はため息をついた。
それから俺の方を向いて、「明日の朝はちゃんと起こしてもらえよ」といって先輩に挨拶して左門を引きつれて出て行ってしまった。
じゃあな!と手をあげて去っていった2人に「あぁ〜」と情けない声をあげてすがりつこうとした俺の目の前で、無常にも障子は閉じられてしまった。
「なんだ?お前の友達は遠慮しぃが多いな」
「…あんたねぇ…」
目を大きくあけてしらっという先輩に、もう何にも言う気が無くなって、はぁ、とため息をついた。
「もう良いッスわ…寝ましょう。火ぃ消しますよ」
「あぁ」
頷いたのを確認して、ふっと火を消すと部屋が真っ暗になる。
それでもどこに何があって、誰が何してるかはだいたいわかる薄暗さだった。
俺はいそいそと作兵衛の布団へ行こうとすると、パシリと手首を掴まれる。
「お前の布団はこちらだ、三之助」
「知ってますよ。あんたが寝るんでしょ」
「何、遠慮することはない。いくら私が美しすぎるからと言ってもまぁお前と年はそうかわらんのだ、いいから黙ってこちらへ来い」
なんだか意味のわからない事をベラベラ言って、先輩…もとい滝夜叉丸はぺろっと布団をめくって俺を手招きした。
この人は本当に、何を言っているのか。
たまに俺の言う言葉は全部この人に届かないんじゃないかと思う事がある。
「…いや狭いっしょ…いいですよ俺…」
「なに遠慮しているんだ三之助のくせに。いいからほら、抱き枕にさせろと言っているんだ。」
わきわきと指を動かす先輩にため息をついた。
「それが本音か…だいたい何で俺なんスか、金吾とかしろんとこいきゃ良いでしょう、わざわざ左門と作兵衛追い出して」
「うるさいぞ三之助。こんな夜更けに金吾としろを起こしたら可哀想だろうが。私とてそれくらいわきまえているんだぞ?」
「俺にもわきまえろ」
「お前にはわきまえてこれだ。」
「ひいきだ」
「ひいきじゃない。三年なんだからこれくらいで騒ぐな。」
「あんたは四年なんだからいい加減1人で寝ろ」
「私は特別だ」
どきっぱり言い切って、ふう、とため息をつかれてしまって、もうなんの力も入らなくなった。
今日も俺の負けだ。
「…わかりましたよ」
「最初から素直になれば良いものを」
ふん、とイヤに長い横髪を流した滝夜叉丸はホラ、と布団のなかで端につめる。
そこに俺はもそもそ入っていって、それからため息をついた。
夜の三年長屋はとても静かで、こんなに騒いでいたのはここだけだ。
満足げに息を吐いた滝夜叉丸に、腹の奥が渦巻く。
風呂に入ってきたのがわかるが、彼独特のにおいがした。
「…今日はなんかあったんスか」
何となく沈黙に耐えられなくて、小さい声でたずねた。
それにピクリと反応した滝夜叉丸がこちらを向いた。
俺は横目だけでそちらをみた。
「……あの人が」
………やっぱりか。
この人が『あの人』と呼ぶのは1人だけで、後輩を構い倒すのも『あの人』と何かあった時だった。
それが今日は俺と言うわけだ。
なんだか腑に落ちなくて、でも理由がわからなかったから黙って目線を元にもどした。
どうせ体はこちらを向いていても、目は俺を映してなんかいないのだ、この人は。
「あの人は…全く私をなんだと思っているのか…」
「…知らねっスよ」
「…あの人は…」
「だからしらねって…」
はぁ、と息をわざとらしく吐いて顔を見ると、やっぱりこちらをみているまま俺を見ているわけではなかったので、俺に答えを求めているんじゃないとわかった。
結局誰でもいいのだ、俺じゃなくたっていいのだ。あの人でさえなければ。
「どうして…ああやって…そんな、なぁ…」
うわごとのようにつぶやいて、ぎゅぅ、と抱きしめられた。
顔が胸に押し付けられて、においが濃くなる。また腹の奥が熱くなった。
俺はじっとしている。
呼吸がゆっくりになって、やがて規則正しい寝息が聞こえた。
顔を上げると、端正な顔があって、やはり自分でほめるだけあるなと思った。
身をよじるけれど、それに反応したのか身をよじかえされた。
「…ん…」
よけいに強い力で抱きつかれる。密着する。
びっくりして思わず固まると、俺の耳元で何かむにゃむにゃ言った。
耳元で口をうごかされたから、どうすればいいのかわからない。
体中が脈打つみたいにして、どくんどくんと騒ぐ。体中が熱い。
手の先から足のつま先まで動かなくなって、ただひたすら耳元からなるどくんどくんを聞いていた。
「…な…」
「…は?」
また何か言っているので、耳をすませた。体中の音を無にしたかったのに、そんなものはできそうにもなかった。体中が熱い。
どっくんどっくんうるさい体はどうしようもないし、動かない。
「…ななまつ…せんぱい…」







無自覚パラドクス


「くそったれ!」
つぶやいた言葉は変に部屋に響いて、早く明日がこればいいと無理やり目を閉じた。

















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が好きだ!この時点では三之助は無自覚です。
あと愛がたたって3ろの二人のからみが長くなってしまった。
タイトルについては深く考えないでください音で使っただけですすいまっせーん!!

宮上 100511
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