続き




「一年生をたくさん入れる」
「…………嫌です。」
「…だろうなぁ」
そうじゃないかと思ったんだよ。とふにゃりと砕けた顔をした先輩が、バタリと倒れて大の字になった。
首を振った僕は凄く我が儘を言っている気になった。
実際、我が儘なんだろう。
先輩は『入れる』と言ったのだ。『入れても構わないか』ではない。決定している事なのだ。
それが分かっても、取り消すつもりになれなかった。
せっかく居心地のいい場所になったのに。
ジュンコ達も随分慣れたのに。
こには何も僕を傷つけるものはないのに。
「2人では駄目なのですか」
「…さっき言ったろう、孫兵。やっぱり、人手が足りないんだよ」
寝っ転がったまま、先輩が僕の頭を撫でた。
あんまり優しく撫でるので、悪あがきが許される気になる。
「僕、頑張ります。先輩に頼らなくても良いように。」
「限界があるだろう。」
「頑張ります。大丈夫、先輩が困るような事には、」
「孫兵」
途中で遮られて、顔を見ると先輩は困った顔をしていた。
早速困らせてどうするのか。
ぐ、と奥歯を噛みしめると、ぐいと引っ張られて、先輩の上にもたれかかってしまった。
逃げようとしても先輩ががっちり掴むので、ならいいやと力を抜いた。
「孫兵。頼らないなんて言うな。頼ってくれよ、俺を。」
先輩なんだぞ?と先輩が笑ったので、腹にしがみついた僕まで振動が来た。
「孫兵が頑張るのはもちろんで、俺が頑張るのももちろんなんだ。俺達は生物委員なんだから。」
な?と促す先輩の顔を見ないまま頷くと、満足そうにした。
「でも、やっぱり足りない部分は出てくるんだ。それこそ、虫達が大脱走した日にゃもう、俺達だけじゃどうしようもないし。」
「…はい」
声を出すと、ぐりぐり撫でられた。
頭巾をとると、首に巻かれた。不思議に思うと、頭からジュンコの代打だ、と声がかけられたのでそのままにした。
足りないとは言わなかった。
「何もかわらないよ、孫兵。何も。」
先輩の声はどこまでも深く、優しかった。
「俺は孫兵の先輩だし、孫兵は俺の後輩だ。そこに一年生が増えるだけだ。」
「…そうですね」
絆されているのはわかるけれど、どうしようもない。
先輩が言うと、何だかすべてに問題が無いみたいに聞こえるのだ。
「ああ。みんなで裏山まで遊びに行ってもいいな、おばちゃんにおにぎり作って貰って。夏はみんなで螢を見に行こう。幸い裏裏山にはたくさんいるから。」
とくん、とくん、とゆっくり一定に流れる先輩の音と先輩の声に、何だか眠くなってきた。
何も怖いものは無くなってきた。
ジュンコがいて、先輩がいたら、もう僕を傷つけるものは何もない。
例え誰が増えたって。
それに、螢は楽しみだ。
「それ、良いですね…少し、楽しみです。」
「そうだろう、そうだろう。」
「先輩。」
「?なんだ?」
「…何故、僕に言ってくれたのですか。別に次の委員会で無理矢理連れてくることも出来たのに」
僕が嫌がる事を知っていたのになぜ、
「…納得して貰いたかったんだ。言っただろう。孫兵は生物委員なんだから。俺だけが納得しても仕方ない事だ。」
「…はい」
先輩の腹の上で頷いたらむずがられた。
くつくつ笑うと先輩が余計むずがった。
「おい孫兵、腹も一応急所なんだぞ」
そう笑いながら言うのでますます笑いが止まらなくなった。
先輩も身をよじるものの、僕をどけようとはしなかった。















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