二年生


僕らの時間


「いいか、よく聞け。俺はもうやめる」

疲れた顔をして、教室の長机に突っ伏したのは久作だった。
それを豪快に笑い飛ばした三郎次は長机の上に腰をかける。
「そうだそうだ、やめちまえ。俺も早々に諦めたもん」
「明日が試験だなんてもう知らない…俺は実技を頑張ることにします」
「あー、俺も俺もー。」
はは、と笑う三郎次を、久作は恨めしそうに見上げた。
「そんなこといって、ろじはいつもいい点数をとっているじゃないか」
「まぁな。だって俺天才だもん。申し子だもん」
けろりと言い切った三郎次に舌打ちをした久作はとりあえず、なんのだよ、とだけ言っておいた。
それにケタケタ笑った三郎次が、でもさぁ、と続ける。
「明日のは、さすがにやばいかも。一年生の総復習だろ?俺たち二年生だぜ」
一年の授業内容を、俺は一年で置いてきたのに。
「…だから二年の授業内容がすっと頭に入ったのか?」
「そうだな。俺の頭も限界があります」
「…馬鹿じゃねーの」
疲れたようにもう一度突っ伏した久作の頭をポンポンとたたいた三郎次が、そういやさー、と声を上げる。
「左近どこ行った」
「厠」
「じゃあもう帰ってくるかな」
「おっしゃる通りかえってきましたよ」
がらりと障子を開けて入ってきたのは左近で、鼻の上に泥をつけていた。
よく見ると全身いたるところが泥だらけである。
「…穴掘り小僧か」
「ご名答」
三郎次の声に肩をすくめた左近はどすんと音を立てて久作の横に胡坐をかいた。
「俺が落ちたのを見て、『おやまぁハズレだ』って言ったんだ。」
「…アタリは誰だろう」
「ろじよ、気になるところはそこか?」
ボカリと三郎次を蹴り上げた左近は、もう不運委員はいいんだと、と投げやりに言う。
「そりゃ…なんというか」
「お前らってなんていうか…」
「…そんなにおかしいなら変に慰めようとするな」
左近のこぶしが落とされても、久作と三郎次は笑いが収まりそうにもなく、肩を震わせていた。
「ああ、おかしい、全く毎度のことながら」
「俺だって落ちたくて落ちてるわけじゃない。飛んでくるボールを避けたり、落ちそうになった乱太郎を助けようとしたりして落ちたんだ」
「その優しさが不運を呼ぶなんてお前って奴は…」
「なのにあのアホのは組は全く謝ろうともしないばかりか俺に『不運達が集まってわらわらしてると副作用を起こすので早くあっちへ行ってください』と来たもんだ。」
「なにボコボコに言われちゃってるんだお前……あーもう!ははは!腹がよじれる!!」
「………久作。」
「…なんだ」
「こいつを中在家先輩の笑顔の前に引っぱっていってやれ」
「そんな怖い顔で怖いことを言うな」
首を振った久作に、協力ぐらいしろ!と怒った左近をみて、ますます三郎次が笑い転げた。
そんな二年い組の前の廊下を、バタバタと誰かが走る。
「あ、四郎兵衛だ。おおーい、しろー」
窓から見えた人物に久作が手を振ると、こちらに気がついて、窓枠に手をついた。
「きゅーさっくん!左近も、ろじくんも」
おはよう、と笑った四郎兵衛に、三人もそれぞれおはよう、と返す。
それに続いて久作が尋ねた。
「どこ行くんだ?」
「あ、あのね、は組はこれから実技試験なんだ」
それで、少しでも練習をしようと今から運動場に行くんだ!
と笑った四郎兵衛に、三郎次が首をかしげた。
「といっても、昼休みはあと少ししかないぞ、しろ。昨日できなかったのか?」
「ああ昨日は」
そこまで言った四郎兵衛は、急に目を遠くにして、もう何もかも諦めたような、昨日の惨劇を冷静に思い出しているような、大人びた顔をした。
「昨日は…裏裏裏裏裏山までランニングだって…七松先輩が」
「ああ…」
それに遠い顔をして、三人は納得した、少し哀れむような声を出した。
「そうか…じゃあ引き止めて悪かったな、しろ」
「いいや、気にしないでおくれね、いつものことだから。じゃあ僕行くね」
「…ああ…がんばれよ」
「ありがとう…」
軽く手を振った四郎兵衛はそのままかけて行き、足音が聞こえなくなったあたりで、去っていった窓枠を見ながら久作が声をかけた。
「なんていうか…あれはあれで不運だな」
「そうだな…おい、俺みたいにからかってみろよ、さぶろーじ」
「あれは不運じゃないぞ…あわれ、って言うんだ」
小さく声をだした三郎次に、左近と久作はそうだな…、と遠い声で返すしかなかった。
















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困った時の暴君オチ。
四人ともとても仲がよければいいよ。

宮上 100424

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