一人称 団蔵、虎若→俺 伊助→僕



今日も今日とて伊助に怒鳴られ、部屋の掃除をする事になって、俺と虎若は雑巾片手に床を這っていた。
伊助は溜めにためた洗濯物を縁側から見える中庭で干していて、雑巾がけが終わった俺達は綺麗になった床に体を預けて、洗濯をする伊助の背中をぼんやり見ていた。

「伊助は働き者だなー」
俺もう何にもやりたくない、と言うと、同じように大の字になった虎若が伊助を眺めたまま返した。
「そうだなぁ。それが伊助だけど」
「…何か虎若、庄左ヱ門みたいなこと言ってる」
「そう?」
はは、と力なく笑った虎若が目を閉じた。
コイツこのまま寝る気かな…
でも俺も眠気は収まらなかったので思わず目を閉じた。
目を閉じたまま口を開く。
「伊助は母ちゃんみたいだなぁ」
「そうだな…器用だし…」
「いや!器用でいったら、あのからくりコンビもそうだし、きり丸も器用だろ」
そうじゃなくてだな!
とガバリと起き上がる。
虎若が眉をひそめてこちらを見た。
「なに?」
「器用の方向がなんか違うんだよ。あいつらはほら、自分のために使ってるけど、伊助はさぁ…世話を焼いてくれるじゃないか」
「…ああ…」
虎若が目を細めて何度か頷いた。
力が抜ける、開け放った障子から入る風が気持ちい。
虎若がぼんやりと呟いた。
「お世話になってるからなぁ」
「うんうん。俺何回母ちゃんって呼んでしまったことか」
「はは、俺も」
「もうあだ名でいいだろう、みんなでいう事にしよう、『伊助母ちゃん』」
「ほんとに言ったら張っ倒すからな、団蔵」
急におどろおどろしい声が聞こえて、ガバッと勢いよく起き上がると、縁側に腰掛けた伊助がこっちをすごい形相でにらんでいた。
洗濯物は干し終わったようで、きれいに並んで風に揺れていた。
ばっ、と虎若を見ると彼はもう伊助に向かい合って正座している。
野郎!気づいたなら教えてください!!
「いいません…」
正座して、目をそらして言うと、海より深いんじゃないかというくらい大きいため息をつかれてしまった。
すみません、ダメな息子で。
「お前みたいな息子を持った覚えはないよ」
「き!聞こえていらっしゃったか…!!」
はぁ、ともう一度ため息をついた伊助は、ぐい、と俺たちの部屋を見渡した。
「ずいぶん綺麗になったね。誰のおかげかな」
「「伊助さんです」」
「その通り。」
2人で声をそろえると、満足そうに頷いた伊助が、ご褒美だよ、と饅頭とお茶を出してくれた。
な、なんて気が利くんだ…
2人でありがとうございますぅ!と叫んでがっつく。
苦笑する伊助はぐぃ、と伸びをした。
「…僕だってねぇ、こんなことやりたくてやってるわけじゃないんだよ。」
ただ気になっちゃうんだよ、と言うので、口の中の饅頭をお茶で流して、反応する。
「いいじゃないか、俺たちは大変助かっています」
「ソウデショウトモ。…きっと見た目もあるんだろうけど」
母さん、って呼ばれちゃうのは。と続けた伊助は、自分の分のお茶をずず、と啜る。
「この間もしんべヱにママ、って言われたし。金吾も普通に母上、って呼んで顔真っ赤にしてた。」
あれはあれで面白かったからなんかもういいけれども、と苦笑する伊助は、なんだか全部を諦めているように見えた。
でも反応できない。だって伊助は母ちゃんみたいな、なんか雰囲気というか…
「いいじゃないか。安心できて。」
けろりと、胡坐をかいた虎若が言う。それに、うん、と困った顔で笑った伊助はことりと湯飲みを盆の上に置いた。
「みんな安心してくれるんだ?僕を見て?」
「うーん、見てというか…雰囲気とか、においとか。やってることとか?」
俺も正直に答えると、ますます困った顔の伊助が、ええ?といった。
「そうだよ。なんかあっても、伊助の声聞くとほっとするよ」
虎若がそう言って笑ったので、俺も、そうそう!と頷いた。
それに、ありがとう、と言った伊助は、顔を外に向けて神妙な顔をした。
ぬるい風が部屋の中を回る。
「だけどね」
静かな伊助の声に、俺たちも湯飲みを置いた。
饅頭はとうになくなっていた。
「虎ちゃん見たいな筋肉だって欲しいんだ、ほんとは。」
「俺?」
「そう。」
頷いた伊助に俺が、意外。とぼやくと口を尖らせて、団蔵は僕を何だと思ってるの、となじった。
「乱太郎みたいな足の速さだって欲しい。庄ちゃんの冷静さも、兵ちゃんの狡賢さも。」
軽く指を振って考えるように言う伊助は、それでもやっぱり、ゆっくりした何も脅かさない動作だった。
「僕は忍者になるんだから。」
ぐぐ、と力こぶを作ろうとした伊助の腕は、白くて細い。
むき出しの俺の腕と比べてもそう。
足の筋肉を見せ付けると、自慢か!とはたかれてしまった。
「伊助は忍者になるんだね」
虎若が小さく言って、にっこり笑った。
虎若も忍者になる。
「そうだね」
頷く伊助に、俺はふうんと返して、ごろりと大の字になった。
「団蔵、食べてすぐ横になるのは行儀が悪いよ」
そう言った伊助はやっぱり、母ちゃんみたいなことを言った。
伊助の苦言も聞かなかったことにして、そのままごろりとうつぶせになる。
顔をあげると、食べた饅頭と湯飲みをおいている盆を端に寄せていた。
それをみて虎若もごろりと大の字になる。
「ちょっと虎ちゃん」
とがめた伊助に、首をかしげた虎若と目が合った。
そうだ、でもだってやっぱり。
「伊助」
「うん?」
声をかけると、正座していた足を崩した伊助がにっこり笑って返事をした。
「それでもやっぱり、伊助は母ちゃんみたいだよ」

なりたいもの



にっこり笑っていた伊助の顔がたちまち般若みたいになって、「まだ言うか」と怒られてしまった。














------------------------------
伊助と団蔵と虎若
忍者になる、と言うお母さんな伊助が書きたかった。
(伝わりきらず←
団蔵は伊助に基本的に甘えていると良い。
同級生の前では俺と言う団蔵と虎若も書きたかった。


宮上 100423

戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -