伊作が弱気










薬草くさいこの部屋ともあと少しでお別れと思うと何だか寂しくなって、ついつい、用事も無いのに長居することが多くなった。
今日もいつもの通り長居してしまって、もう夕時、食堂が活気付いている時間、ぼんやり襖ごしにみえる夕日を眺めていた。ら、やってきたのは仙蔵だった。
「なぁに、また指?」
「まぁ、そうだ」
ぞんざいに言った仙蔵はドサリと畳に胡座をかいてすわって、「ん」と指を出した。
何その態度。
君は僕を家来か何かと思ってない?
と言いながらみると、人差し指を火傷しているようだ。
「冷やした?」
「あぁ。十二分に。」
言い切ったので、薬を探す。
薬箱の何番目にいれたかしら。


仙蔵は基本的に要領が良いというか、立ち回りが上手い。
なのでめったに怪我なんかしないから、ここに訪れる事もない。
大きい怪我をしても自分から来ようとせず、自分で何とかしようとしたり、怪我に気がついてない振りをする。
無理矢理、文次郎が連れてくるか、僕が部屋に押し掛けるかしないと治療が出来ない。
それはまぁ僕以外の六年には良くあることだ。(よくあってはいけない事だと僕は何度も口を酸っぱくして言っている)
だけど仙蔵は指の怪我だけは、しっかり自分からここへ来る。
どんなに小さくてもくる。
一度、ささくれが少し剥けただけで、見ろ、と来たので、思わずささくれが剥けたくらいの傷に塗る薬なんかないと帰したぐらいだ。
仙蔵は指を大事にする。
宝碌火矢の設計やらカラクリやらで細かい作業が滞りなく出きるからだろう。
そうだな昔、そういうものをいじれる城に就職したいと言っていた気がする。
そうか、仙蔵も忍者になるのか。


「はい、出来たよ」
包帯を巻いて、指を返すと、仙蔵がほう、と息をまいた。
「指、大事ならもっと丁寧に扱いなよ」
「どうにもならん時もある」
「まぁね」
ひょうひょうと言い切った仙蔵に、そうだけど、と苦笑して、目線を下に落とした。
僕の手は、仙蔵と違って薬草のにおいや血のにおいが染み着いている。
「…仙蔵は、忍者になるんだね」
「そうだな。」
満足そうに指を見ながら投げやりに答えた仙蔵に、手入れを欠かすなと言っておいた。
こちらに興味のない仙蔵が今は有り難くて、隠し通すはずの言葉がこぼれた。
「僕は…逃げたいよ」
「僕は…逃げたい…」
目を閉じて、これからのことを考える。
僕のやりたいこととやれないこととやりたくないことがごちゃ混ぜになって意識が遠のきそうだ。
血のにおいは苦手じゃないけど好きにはなれないから。

「おや、伊作」
顔をあげると、おかしそうな仙蔵がこちらを見ていた。
まばたきをすると、目を細められる。
「逃げるが勝ち、と言うのを知らんのか」
「…………いや…知っているけど」
「逃げるが勝ちだよ、伊作」
そう言ってニヤリと笑った仙蔵は、立ち上がりざま僕の肩をトンと叩いた。
仙蔵の長い髪が揺れて襖が閉じる。
一瞬みえた夕空は、眩しくて目を細めてしまった。

「逃げるが勝ち…か」
なんとなく染み込むように呟いて、薬をしまう。
仙蔵の言葉はいやに僕の世界に響いて、卒業するまで耳にこびり付いて僕から剥がれなかった。
逃げるが














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仙蔵と伊作

この2人は仲良いと思う!!

宮上 100420

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