続きです




「さぁ、帰るか」
「はい!」
「ばいぃ」
田村先輩と返事をして、潮江先輩に従って林を抜ける。
もうとうに闇が周りを包んでいて、私はなんて遠くまで来たんだと肩を落とす。
月明かりが異様に明るくて、少し励まされた。
先輩達の背中が見えて良かった。
しばらく歩くと少し開けたところに出て、ここの風景はどこかみたことがあるから、学園が近いのだろう。

「文次郎ー」
声が聞こえて、横をみると、四年生の制服を来た人がこちらへ走ってきた。
確か、作兵衛のところの…
「食満」
短く答えた潮江先輩が立ち止まったので私達も立ち止まる。
「見つかったか」
「あぁ」
「良かった。うちの後輩がえらく心配してな。…しかし凄い後輩だな」
近くまで来た食満先輩がニヤリと笑い、それに潮江先輩が、嫌な顔をした。
潮江先輩が口を開けて、返す前に食満先輩が後ろを振り返る。
「おーい、作兵衛ぇ!居たぞぉ」
「え!作兵衛?」
驚いて食満先輩の見ている方を向くと、遠くから同じ色の制服が走ってくるのが月明かりで見えて駆け出す。
「作兵衛ぇー!!」
ちょっとずつ大きくなる作兵衛に、あぁ帰って来たんだなぁと思うと、引っ込んだはずの涙がまた出てきて歯を食いしばる。
そんな私をよそに、近くなってきた作兵衛は何だか凄い形相を…あれ、なんか…
「さーもーんー!!」
こっちに手を振って向かってくる作兵衛は、クラス一番のやつより足が速くなっていた。
…あれ、何か…
「さーもーんー!!」
嫌な予感がするので、足に力を入れて立ち止まる。
涙はとうに引っ込んでいた。
くるりと振り返って呆れたようにこちらを見ていた先輩達の元へ走る。
「さーもーんー!!」
しかし、どうにもならないうちに、ドカンと体ごと作兵衛に体当たりをされて、二人してそのまま倒れてしまった。
「左門!」
「作兵衛!」
先輩達の心配そうな声をよそに、ガバリと起き上がった作兵衛は私に馬乗りになって、叫んだ。
「歯ぁ食いしばれよ!」
と思うと、思い切り作兵衛自身の頭を振りかざし、私の額に振り落とした。

ガッツン

「あだぁぁぁああ!!!」
とてつもない作兵衛の頭突きは、私の頭を割る勢いで、脳震盪を起こしたんじゃないかと思うほどの衝撃だった。
先ほどの潮江先輩の拳骨より数倍痛い。
生理的に出る涙が目尻にたまり、歯もガチガチ震えた。
これで作兵衛が無傷なんて、あいつは何て石頭なんだ。何が入っているのだ、あの中に。
私がもんどり打っていると、それでもまだ私の上からどかない作兵衛は、ビリビリ震えるほどの大声を出した。
「このっ大馬鹿やろう!!」
「ひぃ!」
思わず顔がこおばってしまい情けない声が出たが、作兵衛は気にする事なく私の肩を上から押さえつけた。
「お前は!どんだけ人を心配させたら気が済むんだ!!一人でこんな所まできてっ!!こんな夜遅く、にぃ…っ!!」
作兵衛の声は相変わらず大きかったが、後半は涙声になっていた。
その声に頭突かれた額を押さえたまま顔をあげると、涙をボロボロ零した作兵衛がいた。
私の肩を掴んだ手もブルブル震えていて、あぁ、心配させてしまった。
作兵衛の顔をみると、何だか自分もつられて鼻の奥がツンとして、目尻に溜まっていた涙がボロボロこぼれて、肩が震えた。
作兵衛の声に負けないくらいの大きな声をだす。
鼻がぐずぐず鳴った。
「ごめんなざいぃぃ」
「アホさもん…っ!!先輩達までっ巻き込んでぇっ…!!」
「ごめんなざいぃぃ」
「おっお礼はぁっ…ちゃんと言ったのかぁっ!」
「いいまじだぁぁぁ!」
「いや私は言われてないぞ…」
田村先輩の空気の読めない小さな声の指摘には流石の作兵衛も目をつむってくれたらしく、涙声で「ならいぃっ」と言ってくれた。
「ほんとのほんとに心配したんだからなぁ…!!もっ…帰ってこないかと…おもっ…ボケたれさもん…!!」
うわあああんととうとう大きな声で泣き始めた作兵衛につられて起き上がって作兵衛に抱きついた。
泣きすぎでちょっと頭が痛くなったのにもめげずに泣き喚く。
「ざぐべえありがどうぅぅ」
「もう次は無いからなぁ…っ!!次したらさっきの頭突き50回だか」
「ごべんなざぃ!!もうじまぜん!!」
作兵衛の言葉を途中で区切る。
50回だなんて、恐ろしすぎる、永遠の眠りについてしまう!
びしぃ!とキッチリ立っていうと、最後までちゃんと聞けっ!!とガツンと殴られた。なんて理不尽な!
「いだいぃぃ!」
「痛くない!」
苦痛を訴えると作兵衛にまた理不尽な怒られ方をして、何でだ!と顔を歪めると、泣き止んだハズの作兵衛の顔がみるみる歪んで、また赤子みたいにうわあああんと声を上げて泣き始めた。

「お前の後輩は凄いなぁ、食満」
「…うるせぇよ、ニヤニヤするな」
「…どっちもどっちですよ、先輩…」

疲れきった田村先輩の声を後ろに聞きながら
何とか作兵衛をなだめようとしてあわあわ言ってる私の涙は、もうとっくに引っ込んで出てこなくなっていた。













-------------

長い…
おかしい、食満と文次郎が紫を着ていると言うことに異様に萌えた話だったのに…


宮上 100418

戻る
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -