続きです。



大きい声に思わず振り返ると、2年生の田村先輩だった。
顔は泥だらけで息も切れているようだけど、そんなことはどうでもよかった。
「だむらぜんばいぃぃ」
思わず駆け寄って抱きついた。
先輩は、うわっとか言ってよろめいたけど、何とか受け止めてくれた。
上から声がふる。
「お前は…どこに行ったかと思えばこんなとこにいて…先輩方も心配されて、今みんなでお前を探していたんだぞ!」
「ばい…」
「ばい、じゃないよお前は全く……さぁ、帰る…なんだが」
そこで言葉を切った先輩は、ふぅ、とため息をついた。
あぁ、嫌な予感がする。
「…ここがどこだかわからなくなった。」
「……」
「……」
「…うぁぁぁぁぁ」
「だぁあ!泣くなって!」
だってそんなのあんまりだ。
期待させるだけさせておいて!
あぁ、帰りたい。
「あぁ、泣くな泣くな!方角さえ分かればなんとか…」
…まぁそれがわからなくて困ってるんだが、と続いて余計に不安になる。
なんだこの人は、不安を届けにきたのか。
あぁ作兵衛、三之助。私はもう帰れまい、一緒に美味しいお団子を食べに行こうと約束してたのになぁ…
帰りたいなぁ。
「う゛ぁー」
「泣くな泣くな!大丈夫だ!」
焦る先輩の後ろからガサリと音が聞こえて、思わず黙る。
明らかに風の音ではなかった。
バッ、と振り向いた先輩が、私をぐい、と自分の背に隠した。
先輩のすそをつかむ。
息を止める。
一瞬の沈黙、闇が濃くなる。





「あ?田村?」


素っ頓狂な聞き覚えのある声にひょいと田村先輩の背から顔をだした。
「あ!左門!」
「潮江先輩!」
「じお゛えぜんばいぃぃぃ」
木々を掻き分けて来たのは潮江先輩だった。
もう大丈夫だ、と、もう帰れる、の安心がぐちゃぐちゃになって、引っ込んでいた涙が溢れ出た。
先輩の背から飛び出して、潮江先輩に抱きつく。
「う、わ!」
と先輩の驚いた声が降ってきた。
今日ほど鉄粉のにおいに安心する日はないだろう。
先輩の汗のにおいに力が抜ける。
ここにはあたたかいものがあるから。
「泣くな泣くな…こんなところにいたのか。田村が見つけたのか?」
先輩の低い声が体越しに響く。
くっ付いたところから体が温かくなった。
「あー、はい、私が」
「そうか、よくやった」
短く言った先輩が、ポンポンと私の肩を叩くので、体を離して顔を見上げると、上からゴン、と拳骨が降ってきた。
「いだいぃぃ!」
「全くお前は!自信を持つのは結構だが、もう少し実力が伴ってからにしろ!1人でうろちょろするなら1人で帰ってこい!」
「いだいぃぃ!!」
「痛いじゃない!委員長も心配して探しておられるぞ!」
「ずみまぜんんん」
いろんな涙がこみ上げてきて、ぐずぐず鼻がなる。
落とされた拳骨はもう痛く無かった。
なんとか口を開く。
先輩は先輩だった。
「ありがどうございまじだぁ」
「…わかればよし。」
拳骨を落とされた頭をポンポンと撫でられて、
怒鳴っていた顔が少し緩んだ。





















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