――おやおや、どうしたんだい、サイト。眠れないのかい? それならサイトが眠くなるまで、アタシが何かお話を聞かせてやるとしよう。
 何がいいかい。――恋の話? 何だい急に。素敵な旅人にでも出会ったのかい? ふふふ、そうかい。じゃあ、話してあげようかねえ。
 アタシも若い頃は、恋する乙女だった時もあったもんさ。アタシが惚れた男はそりゃあもう、いい男だった。アタシの一方的な片想いだったけどねえ。とっても紳士的で、何でも器用にやりこなす男だった。男が選んだ女もまた、いい女だったよ。きりりとしていてね、生真面目で正義感の強い、格好良い女だった。
 二人はとっても仲睦まじくてねえ、アタシが入り込む余地なんて零ミリだったね。不思議と嫉妬心なんてもんも生まれなくてねえ、素直にお似合いの二人だ、と思ったもんさ。容姿も端麗でねえ、素敵なカップルだったよ。
 だけどね、ある日男が殺されちまった。愛する女を守るためにねえ。彼女を庇って死んだそうだ。女の方も男が殺された後、すぐに殺されてしまったそうな。
 ――許されない恋、ってやつだったんだよ。男と女の家は、互いに憎み合っていた。敵同士だったんだよ。
 男と女の話も可哀想な話だが、男の姉も可哀想なもんでねえ。二人の仲を優しく見守っていた素敵な姉さんだったが、二人が殺された事を知って気が触れてしまってねえ。可哀想に。
 彼女はアタシと同じ魔女だったんだ。強力な魔力を持っていてねえ。その力を使って、彼女が愛していた二人を殺してしまった両家に、暮らしていた島ごと呪いをかけた。優しかった彼女は、鬼になってしまったんだよ。その後の島は中々悲惨なものでねえ。両家の子孫は今でも呪いに苦しんでいるそうな。
 おっと、いけない。『こいのはなし』が『こわいはなし』になってしまったねえ。ごめんね、サイト。
 さあ、良い子はもうねんねしな。
 ――さもないと怖い怖い鬼がやってきちまうよ。





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