色鳥々-イロトリドリ-


 黒は全ての色を飲み込んで深く滴る。無彩のコートの内側に沢山の色を抱えたサイトは、黒檀の固い椅子に収まったまま、ぐるりと室内を見た。
 そこは客をもてなす貴賓室である。装飾的な調度品が多いのも、その用途から納得できる。だが、ご多分に漏れずやはりこの一室も真っ黒けだった。黒い額縁に入れられた絵は黒い紙に黒い絵の具で描かれているので、やはり黒い。館の主人であるバアドはその絵画を指して、この館を建造した記念に描かれたものだと珍しく誇らしげに語っていたが、何分なにが描かれているかなんて分かりはしない。良い絵だろと言われても精々、そうだね黒いね、と答えるしかなかった。そのやり取りすら、新鮮で愉快だったのだが。
 そうしてサイトが来訪の瞬間を思い返していると、やにわバアドは感慨深く頷きながら呟いた。
「やっぱり、客が来るっていうのは良いな」
「うん?」
「特にサイトは、いろんな色を持ってるだろ。お陰でこの館も華やぐ」
「私より、ネイヴェさん達が居れば華やかになる気がするけどね。ほら、私も基本は黒系だから」
「それもいいな。スノーホワイト、オパールグリーン、黄色。鳥に例えるなら雪鳥と翡翠と金糸雀」
「あはは。それをネイヴェさんが聞いたらきっと、こう言うよ。魔女のアタシをスノーバードと一緒にしないでおくれ、って」
「そうか、じゃあこの話はおれとサイトだけの内緒にしておこう。前に知り合いから聞いたんだ、内緒話や秘密を共有する数が多いほど、相手と親しくなれるんだと」
「あんまり多くなると――友達っていうより、共犯関係みたいになっちゃいそうだけどね」
「おれはそれでも良い。比べるべくもなく、吸血鬼なんてダークサイド《仄暗いモノ》なんだしな」
「あれ、バアドさんは私もそちら側《ダークサイド》に引っ張り込もうという魂胆だったりするのかい?」
「まさか」
 サイトが頬を掻きながら問えば、バアドはあっさりと首を横に振る。ふふん、という得意げな笑みを奏でながら、吸血鬼は幼い面にはっきりと自信をあらわした。
「お前はお前のままだからこそ、きれいだからな。孔雀は彩り豊かであってこそ孔雀らしい。誰もお前から色を奪えない。その事実こそ、おれにとって何より誇らしいんだ」
 窓のない館の中で、蝋燭の光だけがちらちらと揺れている。永劫訪れる事のない朝を祝うような、執拗に黒で固められた洋館の中にて。
「……バアドさんは突然、しかも恥ずかしげもなくそういう事を言う人なんだなあ」
「どうだ、照れたか?」
「内緒、という事で」
 一つずつ重ねた秘密と色を、漆黒は嬉々として抱きしめていく。





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