午睡喫茶店


 その日は約束を守った空によって、高く高く晴れ渡っていた。満ち溢れる陽光が硝子を透けて入ってくる。椅子の上へ敷かれたクッションに丸くなる灰色の猫を撫でている内、ラウトはとりとめのない考え事に意識を奪われた。舌の上に残るクリームソーダの味を楽しみながら、まどろむ瞳がイミルイを探す。
 辺りを見回す手間もなく、彼は発見できた。イミルイは最初から行儀良く、座った席を離れないまま膝の上の猫をじゃらしていたのだ。
「此処に居る猫はみんな機嫌がいいね。手を伸ばしても逃げられない、というのは本当に些細な事かもしれないけど……僕のように猫慣れしていない奴からしたら感動的だ」
「それは……此処の猫たちと仲良くなりたい、というラウトの気持ちが伝わってるから……だと思います」
「そうか、言葉にしなくても伝わるのか。それにしても――イミルイさんはさすが、慣れているというか……猫の方から近づいていっているくらいだものな」
 気づけば、店内の大半の猫がイミルイの足元にじゃれついている。その一匹一匹の性格や好みを熟知しているらしい彼は、誰一人に構いすぎる事なく、全員へ丁寧な挨拶をするように撫でて回るのだった。
 成る程、犬のように表には出さないが、猫には猫なりの愛情表現があるらしい。ほうと感心して眺めていると、ふと、イミルイを囲む猫達がゆらゆらと尻尾を立てているのに気づく。これはもしや。
「イミルイさん、この現象ってこの間の本に載っていた、大好きの意思表示……! 此処の猫達は、イミルイさんの事が大好きなんだよ」
「そう……なんでしょうか」
 思わず群れる猫に混じって熱心に観察を始めるラウトに、イミルイは少しだけ首を傾いで。
 些少の躊躇いもなく、その頭を撫でたのだった。

「――ん?」
「……」
「あの、イミルイさん……?」
 椅子に座っているイミルイ、しゃがんでいるラウト。位置関係としては、その体勢に何ら無理はない。しかし、その行動の真意を測りかねている。そうこうしている内にも、もふもふと優しい往復を続ける彼に、海王は頬を指で掻くしか術がない。
「ど、どうして僕は貴方に頭を撫でられているんだろうか」
「ラウトが……嬉しいことを言ってくれたので。お礼、です」
 ありがとう。
 穏やかな陽だまりの中で、微かに笑んだ人形。その掌に憩いながら、ふと思いついた言葉が口を突いて出た。
「来世があるなら、猫も悪くなさそうだな……」
「ふふ……そう、ですね。猫みたいな生活も……楽しそうです」
 あらゆるしがらみを、一時だけ忘れて。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -