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テレビを見ながら、黄瀬は動けなかった。ただひたすら地べたに胡坐のまま座ったまま、その視線をテレビから離せなかった。手には携帯を握りしめている。
テレビからはニュースキャスターの少し興奮しているのか強い口調のリポートと、少し遠くから撮影された銀行の映像。犯人は15人を人質にして3時間立て籠もっています、なんて何回目かの台詞を言ったかと思うと、さっきまで言っていなかった言葉を口にした。「警官が突入態勢に入った模様です」それを聞いて、黄瀬は一瞬身体に力を入れた。同じ姿の警官たちが、銀行の裏から入るようだった。透明の縦を持った人もいたりするが、基本的に警官たちは皆同じ姿をしていて、どれが青峰なのか黄瀬にはわからない、ただ無事を祈るだけだった。
それからはあっという間だった、ものの30分くらいで銀行は警官によって制圧されたが、黄瀬にとってそれは長くとても長く感じた。「警官が1名犯人に撃たれ重傷、他3名も撃たれて軽傷だという情報が入りました」そんなニュースキャスターの声に、黄瀬は握りしめていた携帯を取り出すと、青峰に電話をかけた。出ない可能性が高いのは分かっているが、それでも安否が知りたかった。

「出ろ、出ろ、出ろよ、アホ峰」

黄瀬は祈るようにつぶやいたが、青峰が電話に出ることはなかった。それからの時間は、先ほどの突入したときと同じくらいに長く感じた。黄瀬はひたすらニュースを見て銀行強盗のニュースをチェックしたが、犯人の名前しか今のところわからず、撃たれた警官の名前は放送されていない。不安だけが胸にこみ上げて、何もする気になれない。
ガチャっと扉があく音がして「ただいま」そうやってなんの連絡もなしに青峰は帰ってきた。

「青峰っち」
「黄瀬、お前何度言ったら分かんだよ、鍵閉めとけよ危ねえだろ」
「それだったら、あんたも何度言えば分かんだよ、ちゃんと仕事の後は連絡しろって言ってんだろ」

玄関に向かって黄瀬は走ると、何事もなかったかのようないつも通りの青峰を睨みつけた。殴ってやろうかと思ったが、すぐに右手を見て、その意思は消えた。青峰の手には白い包帯が幾重にもまかれていた。それ、っと黄瀬が震える指で指さして言えば、ああ撃たれた、とあっけらかんとした口調で青峰は言ってから、青ざめた顔色で固まったまま動かない黄瀬の手を左手でつかんでリビングに引っ張っていく。

「んだよ、飯できてねえのかよ」
「連絡寄越さなかったから、心配で何もできなかったんだよ」
「腕撃たれて手術してたから連絡できなかった、わりい」

おかげで暫く休みもらえたんだぜ、なんて言って青峰が笑って言うけれど、黄瀬には冗談には聞こえなかった。そんなこと笑って言うなよ、少し語尾が強まった。青峰も黄瀬の様子に気づいてすぐにばつの悪そうな表情になって、悪かった、と素直に謝る。
握ったままの黄瀬の手を引っ張って、ソファーに押し倒した。大きいソファーを買っているけれど、二人には少し小さい。覆いかぶさるように青峰はソファーに横たわる黄瀬に跨る。
青峰は少し息を吐いた、あまり言葉にすることは慣れない。目を閉じれば脳裏によぎるのは、撃たれた先輩警官の姿だった。確認できただけでも肩と腹部を撃たれていて、撃たれた箇所から思ったよりゆっくりと溢れ出してきた血液、崩れ落ちる身体。それから自分の腕への激痛。

「俺だって、怖かった。死ぬんじゃねえかって」
「うん」
「だけど、これからこの仕事すんだし笑ってねえとやっていけねえからさ、お前も笑って出迎えてください」

変に最後を敬語した青峰に黄瀬は思わず苦笑した。「何で敬語なんスか、似合わねえ」と言って、青峰の首に腕を回して抱きしめて「お疲れ様、怪我してるけど無事に帰ってきてくれてよかったッス」そう言って笑ってから、青峰の頭を抱きしめたまま撫でてあげた。黄瀬、と名前を呼ばれて体を離せば、無言で青峰からキスをされる、触れるだけの柔らかいキス。唇が離れれば、また黄瀬は無言で青峰を抱きしめた。


キスをしたらぎゅって抱きしめ返してくれんのが泣きそうにしあわせだとか




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