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仕事を終えて、黄瀬は空港から徒歩で出た。着ている服は白いシャツに黒のネクタイとズボンと、仕事着のままで正直少し恥ずかしかったが、迎えに行くから今日は着替えるな、という意味の分からないメールを青峰から送られてきていて着替えるわけにもいかなかった。目立たないように空港に隣接してある駐車場の隅の方で黄瀬は縮こまって青峰を待つ。
5分くらい経った後に携帯が震えて、あと少しで着く、というメールが送られてきた。それから本当に5分も立たない間に青峰は黒くて大きなバイクに跨って迎えに来た。

「遅えよ、この恰好恥ずかしいんッスからもっと早く来いよ」
「うっせえよ、これでも飛ばしてきたんだからな。警官がスピード違反出来ねえだろうが」

バイクと同じ黒いヘルメットを外しながら青峰は黄瀬の文句に反論する。言葉こそ荒いが、二人の表情は至って穏やかなものだ。黄瀬は薄く笑うと、バイクに近寄ってから脚を少し曲げて屈みこみ、バイクに座っていて少し背が低くなっている青峰と身長を合わせると、触れるだけのキスをした。キスが終わると、見られてても良いのかよ仕事場だろ、と意地悪く青峰が言ってきたが、良いンだよ、と言って黄瀬は笑って言い返す。
青峰は黄瀬に黄色のヘルメットを投げて渡す。黄瀬はそれを慣れた手つきで頭にかぶせると、バイクの後ろに跨って青峰の腰に手を回そうとした。しかし、移動する前に聞きたいことがあるのを思い出し、回しかけた手を辞めた。

「なんで今日は制服を着てろなんて言ったんスか?」
「別に、あんまり見たことないから見たかっただけ。思ってたより似合っててエロいな」

腰を少しひねって青峰は黄瀬の制服姿をもう一度見てから、コスチュームプレイとかしてもいいかもな、と真顔で言えば、黄瀬は青峰の背中を拳で軽く殴った。ぽん、と、どん、のはざまの音がして、青峰は少し顔を歪めた。

「んだよ、別に良いだろ」
「よくねえーよ」

そう黄瀬は言うけれど、青峰は一度出てきた想像を打ち消すことはできなかった。自分も制服を持ち帰ってから、やってみてもいいかもな、なんてことまで考えて思わず口元が緩んでしまった。それを黄瀬は見て、やらしいこと考えんなよ、と言ってもう一回軽く背中叩く。仕事で絶対に着る服でそんなことをされたら、着るたびに思い出してしまいそうだった。
青峰は少し不機嫌そうな顔をしたかと思うと「そろそろ進むぞ」と言ったから、黄瀬は慌てて青峰の背中に抱きついた。バイクの低く大きなエンジン音の中に青峰の声が聞こえた。お疲れさん、という声が本当なら掻き消えそうなのに、はっきりと聞こえた。



くだんないことで笑ってんのが心地いいとか
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