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直輝が青峰のことを「とーとー」黄瀬のことを「パパ」と呼ぶようになった。「とーとー」は「お父さん」の意味だ。最初は「パパとママ」になりそうだったのを、青峰が何度も呼びかけて「とーととパパ」に変えさせた。理由を聞くと、涼太だって男だろ、と昔から何回か聞いたことのある返事が返ってきた。
青峰は昔から黄瀬のことをちゃんと男性として扱っていた。夜は下をやっているが、それ以外では男として見てくれていることを黄瀬は嬉しかった。一緒にいるときは男友達みたいに軽口やジョークや下ネタを言ったりするし、スキンシップといっていいのかツッコミで叩いたり叩かれたり蹴ったり蹴られたり。決して、壊れ物を扱うように扱うことは付き合い始めた時から変わらない。ただ、時折静かになってしんみりとして、手を重ねて向かい合ってキスをしていた。
それについてきっとスイッチがあるのだと青峰も黄瀬も思っていた。友達から恋人になるスイッチはいつ入るのか自分たちでもわからないが、スイッチがはいる時は一緒だったからきっと二人で一つのスイッチ。ふざけあっていても、スイッチが入ってしまえばキスをしたりセックスをしたり触れ合って恋人になってしまう、そんなスイッチ。

「とーとー」

ベビーベッドから声が聞こえる。慌てて青峰が走っていくと、直輝がベッドの中でぐずっていた。青峰が抱き上げて服を触ってみるがトイレではなかったみたいで、抱きかかえたままリビングにいる黄瀬に「飯みてぇ」と言った。
それを聞いて黄瀬は時計を見て、少し早いッスね、と言いながら立ち上がってキッチンに行く。ミルク瓶を取り出して、粉を入れてからぬるめのお湯を入れて振った。その動作も既に慣れたもので、様になっている。掌に少しだけミルクを垂らして温度を確かめると、青峰にミルクを手渡した。
未だぐずる直輝に、青峰は「ほら、飯だぞ」と言って哺乳瓶を近づけていく。すぐに直輝は哺乳瓶に口付けた。その様子もすっかり様になって慣れている。「すっかりお父さんだね」と黄瀬が二人の様子を見ながらそう言った。
ちゅっちゅと必死に哺乳瓶のミルクを吸っていたが、暫くすると口を離した。「満腹か」と答えることは無いが青峰が聞いてから、抱き上げてから肩に抱えて背中を軽くとんとんと叩く。げっ、と軽く聞こえてから抱きなおす。

「ほんと、そっくり」

ミルクを飲み終わった直輝をそれをあやす青峰を見ながら黄瀬は呟いた。「俺の遺伝子はどこに行ったんんだろな」と呟けば青峰が子供を片手でしっかり抱いて、空いた片手で黄瀬の頬をなぞると「ほんとだよな、お前に似てきた方が幸せだっただろうのに、こいつには悪いことした」と苦笑しながら言った。
きめの細やかな白い肌、透き通るような金髪と蜂蜜色の瞳、整った顔。きっと自分と黄瀬だったら黄瀬になりたいはずだ。そう思いながら言ったら黄瀬が「俺は大輝似でよかったよ、男だったら絶対大輝似の方がいいよ」と言ったので驚いた。こんなにも綺麗な顔をしているのに、自分の顔の方が良いと思っていたとは知らなかった。
直輝の顔を撫でながら「青峰、案外モテてたっしょ。俺は知ってるんスよ、告白されてたの。男の俺が惚れるくらいだからね、絶対大輝似の方が良いよ」そう言った後、黄瀬は直輝に「直輝もそう思うよなー」と呼びかけていた。勿論まだ言葉は分からないので、直輝は黄瀬を無垢な瞳で見つけ返しただけだ。

「パーパー」
「そうだよ、パパだよ〜」

指を突き出したら直輝は差し出された黄瀬の人差し指に小さな手を絡めた。握手握手と黄瀬は無邪気に笑いかけた。
こんなにも小さいのに、いつの間にか俺達と一緒になるくらい大きく成長しちゃうんだよね、と青峰に話しかけたら、まだまだ先だろ、と苦笑された。けど、もうすぐ1歳を迎えるし、ミルクだったのも時々離乳食も食べるようになった。子供の成長って恐ろしいなぁって思う。夜泣きだって最初は頻繁にあっていらいらしたこともあったのに、今ではすっかりいい子になって夜泣きはめったになくなって少しさみしい。青峰と二人でどうしようどうしようと慌てていたら一年なんてすぐに去ってしまう。今読んでいる「とーと」「パパ」だって、最初はあーあーとかで意味なんかなかったのにねぇ。昔の青峰っちはこんなにかわいかったのかぁ全然違うなぁ直輝もお父さんみたいになっちゃうのか、って言えば良く分からないけど青峰に黄瀬は殴られた。

「酷い、俺何もしてないじゃん」
「なんか、今の俺みたいに直輝がなるのが嫌みたいなこと言ってたから腹立った」
「別に大輝に似るのは嬉しいってさっき言っただろ。こんなに小さくて可愛いのに大きくなるのが早いのが嫌って話」

黄瀬はそう言って笑った。少なくとも10年はまだまだ小さいだろ、と青峰が言えば、それから4年たったらもう出会った時と同じデカさになってんだよ、と黄瀬が言った。そういえば、そうだ。10歳の時はとりあえずバスケバスケで、14になったらもう黄瀬に会って付き合ってたんだな、て思うと人生って早くて意味が分かんねーなって思う。「14歳になったらもう俺達よりも彼女優先したりとかしちゃうんだろなぁ」黄瀬はそう言って笑ってからぷにぷにと握手していた指をほどいてから直輝の頬をつついて遊んでいた。

「それまで可愛がればいいじゃん」
「そーッスね。おっぱい星人だけにはなんなよー」
「うっせぇ」

いつまで三人なんだろうねー。いつから直輝もかわいい恋人と一緒になるんだろねー。
まだ生まれたばかりのはずなのに、そんなことをもう思ってしまう。俺たちはもう14歳で運命決まったみたいなもんだけど、この子にもそんな出会いがあればいいな。




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