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日本で産もうか、という話になった。親しい友人も多いし、親がいた方が助かるだろうと思って、そっちに帰ろうと思うと赤司に電話をかけた。しかし「そっちで産んだ方が良い。大輝がNBA入りを蹴ったのはこっちでは結構大きなニュースになっているんだ。それに、急に環境が変わると涼太と子供にも精神的な負担になる。男性の出産にしてもアメリカの方が医療は進んでいるからな」と赤司に説得されて、アメリカで産むことになった。
心配だな、と黄瀬が溢せば、行けるメンバーを募ってからそっちに行くよ、と赤司からは頼りになる言葉を貰った。そんなわけで、二人はアメリカに残った。黄瀬はお腹が大きくなりあまり外を出歩けないので仕事はデータを家のパソコンに送ってもらい自宅で仕事をしていた。青峰は元いたチームのコーチとして参加しているが、話を聞く限りもともとチームメイトで歳も大して変わらないので今でも仲良く練習に参加しているらしい、コーチ兼選手というべきなのか。監督にも戻ってこいと言われているらしく、事態が落ち着けば選手復帰も考えると、青峰は黄瀬にあらかじめ言っていた。

「あー、そう、そこの紫は緑色の方が良いと思う・・・」
『わかった、じゃあ変更しておくから』

仕事の電話が終わると、腹部が痛み出した。陣痛だ、そう思った黄瀬は先ほどまで使っていた電話で、病院に電話をかけた。暫くして救急車がくるまでには陣痛は一度収まっていた。救急車に乗り込む前に青峰に電話をかけたら「今から行く、頑張れよ」と切羽詰まった声で言われて、こんなに慌てた声初めて聴いたな〜ってなんだか和んでしまった。それでも、やっぱり一人は心細くて、救急車に乗りながら青峰のことを黄瀬は考えた。
病院で分娩室に入ってから少し経ったときに、青峰が息を切らしながら入ってきた。もう陣痛の時間も短くなってきていて、辛かったときだったから黄瀬は青峰が来てほっとした。

「大輝」
「間に合った・・・よな」

心配そうに聞いてくる青峰に黄瀬は笑いながら頷いた。もう、辛くて顔も汗だくで、それでも青峰がいたから黄瀬は笑った。
出産が始まると黄瀬は青峰の手をずっと握っていた。息を荒げながら力み、出産している黄瀬に青峰は頑張れとしか言えなかった。それが申し訳なくて、申し訳なくて、青峰は黄瀬の握りしめている手をただ無事に生まれることだけを願って、握り返した。
出産にかかった時間は長く感じた。これほどまでに長く感じて、緊張し続けていたのは初めてだった。ただ声を出して手を握り返していただけなのに、青峰もじっとりと汗をかいていた。
おぎゃー、と泣く声を聴いたときに、二人とも泣いた。「元気な男の子ですよ」と助産婦さんが生まれたばかりの赤ん坊を黄瀬に抱かせた。放心状態だった黄瀬も、ゆっくりと子供を抱いてしっかりと抱きしめた。青峰よりも少し肌の色は白く、髪も青峰から譲り受けた群青色が少しだけ申し訳程度にだが生えていた。まだ泣いていて瞳の色は見えない。

「生まれたんだな」
「生まれたよ。ほら、俺の言った通りにあんた似だった」

黄瀬はそういって笑った。汗まみれで綺麗な金髪が額に張り付いていた、しかし、それでも黄瀬は美しかった。
ゆっくりと黄瀬は青峰に赤ん坊を手渡した。青峰もゆっくりと抱きしめた。「つぶしてしまいそうで怖ぇ」と言いながらも青峰はおそるおそる抱きしめた。まだふにゃふにゃした頬を障れば、赤ん坊がぼーっとした表情で見ている気がした。瞳の色は緑色だった。青と黄色を混ぜたら緑色だって、デザイン事務所の先輩が言っていた。俺達の子供だと言う証拠みたいだと、その緑色の瞳を見て黄瀬は思った。
全体的に青峰に似ているが、ちゃんと見れば黄瀬に似ているところもあった。耳の形と唇の形は黄瀬似だ、もっとちゃんと見ればもっともっと見つかるはずだ。



名前は直輝。真っ直ぐに輝くように、と黄瀬が名付けた。



予定よりも一月ばかり早い出産だったから、友人は誰もいなかった。やっと赤司と黒子と桃井が青峰たちの家を訪ねてきたときには、二人は皆を歓迎した。
赤司は真っ先に黄瀬の腕の中でうとうとしている子どもを抱き上げると、その顔を見て「大輝にそっくりだな」と言って笑った。それを聞いて、黒子と桃井も赤司の腕の中にいる子供の顔を見て笑った。「だいちゃんの小っちゃいころのまんま」と桃井は昔見せてもらったアルバムの写真を思い出してそう呟いた。
赤司の手から桃井の腕の中に移動させようとしたとき、少し激しく揺すってしまったのか赤ん坊がぐずった。あー、とか、わーとか、そんな発音で叫んで桃井が慌てる。ど、どうしよう!とか言っておろおろとしている桃井から、黄瀬が直輝を受け取ってあやす。「よしよーし」と優しい声色で呼びかけながらゆっくりとゆりかごの様に身体や腕を揺らした。

「すっかり黄瀬くんもお母さんですね」
「女じゃないんすけど、そうなるんスよねぇ」

黒子にお母さんと言われて違和感があるが、嬉しい気持ちもある。
ぐずっていた直輝がだんだんと笑い始めて手を伸ばして黄瀬の少し伸びた髪の毛を掴んだ。少し痛いが好きなようにさせている。直輝はよく黄瀬の髪の毛を掴んだ。青峰も黄瀬の髪の毛が好きでよく触っているので、親子だな、と思う。
大好きな恋人とその子供と友人に囲まれて、幸せだ、としみじみと黄瀬は思った。隣を見れば青峰も笑っていて、この人に付いてきてよかったと思った。「何だ?」と青峰が黄瀬が見ていることに気が付いたから「ありがとう」と言えば不思議そうな表情をしていた。

「何かしたか、俺」
「んーん、何も」
「ずっと一緒にいるけどさ、たまにお前がわかんねーよ」

そう言っているけれど、青峰の表情は明るい。何も言わないけれど、何かしら伝わっている気がする。それだけでいい。
二人で笑い合っていると「二人の世界に入らないでください」と黒子から言われた。もう二人じゃない、と黄瀬が言えば赤司が「一本取られたな」と言って笑っていた。もう2人じゃない、新しい家族がいるんだ。腕の中でぼんやんやりと揺られている直輝がいた。





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