テキスト | ナノ
黄瀬はスキンシップが激しい人間だった。どうでもいい人間はそこに存在しないような態度を取るが、一度打ち解けてしまえば懐く。そして戯れるのだ。青峰もそれを受け入れていたし、黄瀬から触れられるのは決して嫌ではなかった。どちらかといえば好きな部類にも入る。そして、青峰もスキンシップをする方だった。よく黄瀬と一緒にいて、二人でふざけていた。キセキの世代でなくとも、二人の仲がいいことは中学でも有名であったし、高校に入ってもお互いに会ったりしていて友人の間では二人が友達であることを知らない者は少なかった。
いつものスキンシップのつもりだった。黄瀬が青峰の背中に抱きついて、青峰がうっとおしがって、だけどそれは嘘で、引っぺがした黄瀬をくすぐったりして、そういつも通りだった。ただちょっとだけ、場所が悪かっただけだと、誰かがあとで言ってくれたけれどそんなこと言ったって事実は曲げられなかった。二人でいて、弾みで青峰が黄瀬を押した。その先にはガラスの窓があって、体制を整えるには場所と距離が無くて、黄瀬はそのままそこに倒れこんだ。がしゃん、という音と、きゃー、という女の子の叫び声。

「黄瀬」

そう言って、青峰は駆け寄った。肘から倒れこんだのか、腕からの出血が一番多い。だが、青峰の視線はそこには向かわなかった。きせ・・・と青峰はまた呟いた。その顔はどう例えればいいのかわからないくらいに、混乱していて複雑な表情をしていた。泣きそうで、辛そうで、焦っていて、そんな気持ちが含まれているだろう。青峰の視線は黄瀬の顔に向かっていた。「大丈夫っス、軽く切っただけだし」と黄瀬は慌てる皆を落ち着かせようと、笑いながら言った。「ごめん、どうすればいいのかわかんねえ、きせ」青峰だけが黄瀬の向かってそう言う。どうしたのか分からなかったが、青峰の言った次の言葉で黄瀬は、自分に何が起こっているのか理解できた。「顔、」その風貌から想像もできないような、不安げで小さく青峰はそう言った。黄瀬の顔は、右目の横から頬の上を切っていた。


病院に運ばれると手術室にすぐに黄瀬は運ばれた。結局腕を15針、顔を6針縫った。腕も顔も表面的な傷ですぐに完治し、バスケの練習に支障はないと医者は言ったが、問題は顔の怪我だった。こちらも完治すれば傷も目立たなくなり、メイクをすればほとんど分からなくなると言われた。
黄瀬涼太はモデルだった。顔は商品だ。何を言われるか恐ろしいが、それでも謝りに行かなければと青峰は重い脚を引っ張りながら黄瀬の病室に向かう。病室で黄瀬はスマートフォンを弄っていたが、青峰がくるとそれをベッドにおいて笑みを作った。

「青峰っち、来てくれたんスか。来なくても大丈夫だったのに。入院とか必要じゃないんスけど、事務所が一応って言って聞かないから一泊だけ入院することになったんスよ」
「・・・黄瀬、ほんと悪かった」

明るく話す黄瀬とは対照に、青峰は表情は暗いままだ。そして、謝罪を述べ、頭を下げた。頭を上げる様子がうかがえず、黄瀬は一瞬困惑したが「頭あげてほしいッス」と黄瀬が言えば、ゆっくりと青峰は頭をあげた。だが、相変わらず表情は暗い。
顔の傷、メイクすれば隠れる程度だから。と黄瀬は青峰の不安を取り除こうとそう言った。実際嘘は言っていない。だからそんな心配しないでも大丈夫ッスよ、と黄瀬は笑いながら言った。それを青峰は黙って聞いている。
これはチャンスなのか、と黄瀬は考える。黄瀬涼太は青峰大輝が好きだ。今回の怪我も、よろけれて転べば笑いながらも心配してくれるだろうな、と思ったのが魂胆だった。まさか病院まで来ることになるとは思わなかったが。「悪いと思ってるならさ、付き合ってよ」言ってはダメだし、こんなことを利用するなんて最低だとは分かっている。それでも利用できるものは利用して、青峰大輝を黄瀬涼太は欲しかった。

「付き合う・・・」
「そう、付き合ってよ。俺、一応モデルだし顔に傷は流石にヤバいんスよ。悪いと思ってるなら、償って、俺の言うこと聞いてよ」

声が震えないか心配だった。こんな状況になっても、青峰がイエスという確率は半分くらいだ。いくら罪悪感があっても、それとこれとは別だろと一蹴されてしまえばゲームオーバーなのだ。焦っていることがばれないように、余裕のある表情を黄瀬は必死に作る。断りにくい状況を少しでも作ろうとした。
青峰は黙ったまま、静かに頷いた。付き合うことの意味が恋愛的なことだと分かっているのだろうかわからないが、これで青峰と付き合えることにはなったのだろうかと、黄瀬の方が不安になる。
「・・・じゃあさ、キスして。恋人でしょ」勘違いしているかもしれないという不安を拭いたくて、黄瀬は青峰に言った。これをさせれば、絶対に付き合ってに意味が恋人だということも分かるだろう。目ぇ閉じろ、と言われ黄瀬は突然のことで意味が分からないうちに反射的に目を閉じる。口元に温かい感覚がきて、キスをされた、ということが分かった。

「これで満足かよ」
「・・・うん、ありがと。ごめんね」

求めていたことのはずなのに、やっぱり苦しい。狡いことと悪いことはするもんじゃないなーと思っても、言ってしまったこととやってしまったことは無くならない。精々、この偽物のレンアイを謳歌するしか黄瀬は選択肢はなかった。





青峰は黄瀬に対して優しくなった、それこそ女に触れるようにやさしくて、怪我をする前のスキンシップは無くなった。それでも隣にはいたから、きっと恋人をしてくれているんだろうと、黄瀬は触れ合うことが少なくなったことは嫌だったが妥協した。隣にいてくれるだけでよかった。

「黄瀬、鞄」

単語だけだけど意味が分かって鞄を手渡す。青峰はそれを受け取ると、手に持った。部活用品があるけれど
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