テキスト | ナノ
青峰はよく黄瀬に抱きつく。後ろからだったり、前からだったり、上からだったり、下からだったり、どこから抱きつくかはまちまちだったが、抱きつくのだ。それから黄瀬の金髪をかきあげて、青いピアスがあることを確認すると、安心したのかまたぎゅうっと抱きつくのだ。よしよしと頭を撫でれば、嫌そうな顔をするが抵抗もしないし辞めろとも言わないので、黄瀬はよく青峰の頭を撫でる。普段は男らしいのに、たまにこんな風に子ども帰りをする青峰を黄瀬は愛おしくてたまらない。
したいの、と尋ねれば、首を横に振る。ただ、ベットの上で黄瀬の上で青峰は黄瀬に抱きついている。こうなるのは黄瀬が仕事のあった後ばかりだ。中学の時からこうされているけれど理由を聞いたことはない、聞いても青峰が教えてくれるとも思っていなかったからだ。ただ、今日の青峰はいつもよりも長く抱きついている。いつもならばそろそろキスをして手をつないで、上と下ではなく右と左でベッドに転がるのだ。

「どーしたんスか、今日はいやに甘えるんスね」

きっと答えてくれないだろう、黄瀬はそう思っていたが、青峰は黄瀬の金髪を弄りながら「匂いがする」と言った。
匂いがするのだ、黄瀬があっただろう女の香水だったり、仕事を一緒にしている男の煙草だったり、他にも色々と混ざった黄瀬じゃない匂い。それが青峰は嫌で嫌で仕方がなかった。自分の知らないところに黄瀬が行って、知らない人物と会って、青峰の知らない仕事をする。それを全てを訴えてくるのが仕事後の匂いだ。
玄関から、ただいま、と言って入ってきた黄瀬を青峰はすぐにベッドに連れて行く。黄瀬はなれたように抵抗もしないで、青峰になすがままにされてベッドに横たわる。すぐに青峰が覆いかぶさって、抱きしめる。そうやって、知らない黄瀬を必死に知ろうとするのだ。「匂い?そんなに嫌だったんスか、だったら先にシャワーとか浴びたのに」黄瀬は青峰の気持ちと違うことを思い取ったのか、慌てたように青峰を押し返してベッドから出ようとしたが、青峰はそれをさせず一層黄瀬を強く抱きしめる。

「違げーよ、んなんじゃねぇから」
「どうゆうことなんスか」
「黄瀬の全部を知りたいんだよ、で、俺で上書きすんの」

そういって青峰は黄瀬の唇に自分の唇を合わせる。黄瀬もすぐに応じて、薄く唇を開いて青峰の舌を受け入れる。軽くむさぼるようなキスをして、抱きしめていた手を黄瀬の手に重ねて、向かい合ってお互いに微笑む。
意味わかんねえ、と黄瀬は笑った。分かんなくていいんだよ、と青峰はそういった。手をほどいてまた黄瀬を抱きしめる。知らない匂い、大人な黄瀬。それらを全部はぎ取って黄瀬涼太というただの人の子、青峰のものにするのが好きなのだ。芸能人様様なんていうものを感じさせない、ただ自分だけを見る黄瀬が好きだ。モデルの黄瀬も好きだが、それだけでは物足りない、自分だけが知っている一面が欲しい。
ただでさえ黄瀬は先に社会にでててオトナなのに、こんなコドモみたいな考えを持っているなんて知られたたくはない。大人っぽい黄瀬の子供っぽい姿、行動、仕草、口調。子供っぽいのに誘惑するような色気があるから恐ろしい、青峰は笑いかける黄瀬の笑顔を見ながらそう思う。

「上書きってどーするんスか?」
「いつもしてやってんじゃん、こーやって」

抱きしめていたため、黄瀬の背に少し敷かれていた手を抜き出して、黄瀬の服を脱がしていく。黄瀬はカッターシャツとかボタンの服をよく着るから、手間と時間はかかるけれど脱がしやすくて青峰は助かっている。小さな白いボタンを、大きな手で青峰は慣れた手つきで取っていく。黄瀬も焦れたのか、下の方からボタンを取ろうとするが青峰がいて手元がうまく見えなく、いつもよりももたついてしまう。結局ボタンを青峰が殆ど取り去った。見えた薄い肌に、青峰は自分の掌を這わせると、黄瀬が下で身をひねった。「くすぐったい」そう言って、黄瀬はくすくすと目を細めて笑う。笑っている黄瀬を青峰は見たが、気にすることなく手を黄瀬に這わせる。それからまた抱きしめる、知らない匂いを消すように服を脱がせて直接肌に。
早く大人になりたい、体格だけは一人前に大きくなっていってくれるが、年齢だけはそうはいかない。いつか黄瀬と同じ立場にたてたならば、この不安はなくなってくれると思いたいが、そうはなってくれない気がする。


ベッドの中で二人でだらだらと話していると、青峰は何かを思い出したのか、あっ、と言った。体をベッドから下ろして、脱ぎ捨ててある服から箱を取り出した。黄瀬の知らない匂いはもう消えている、それでも不安は消えない。

「これ」

だから、初めて給料といっていいのか分からないがバスケの契約が決まった時の金で、青峰は黄瀬に時計を買った。普通は両親とかに感謝を込めて何かを送ったりするべきじゃないのかと思ったが、後回しにした。青峰がポケットから取り出した箱に入った時計を見た黄瀬は、俺に、と驚いた表情でそう聞いてきた。青峰が頷けば、青峰っちから何かもらえるとは思ってなかった、そういって笑った。からかっている口調じゃなくて、単純に驚いているだけの少しだけ大きな声だったから、青峰は文句を言おうとした口を閉じる。
黄瀬はさっそく箱から時計を取り出して、自分の腕に巻きつけていた。銀色のシンプルな時計だが、黄瀬に安物は似合わないだろうと思ってブランド物。腕に巻きつけた時計を色々な方向から見て、黄瀬はにやにやとしていた。「これブランドものじゃないッスか、高かったっしょ」黄瀬もブランド名が刻まれているのを発見して時計が高いものだと気づき、青峰の表情を窺うように見た。「昔っから貰ってばっかだったからな、黙って素直に受け取っておけ」青峰はそういって照れ隠しに黄瀬の頭を撫でまわす。黄瀬の綺麗な金髪が好き勝手に色々な方向へ跳ねる。
黄瀬からはいつも良いものを贈られる、洋服だったり、食べ物だったり、その時折によって物は違えど高いものだということは見ればわかるくらいのものばかり。貰ってばかりで悪いと思っても、高校バスケで有名であろうと青峰はただの高校生で、部活ばかりしていて暇があれば黄瀬と会えるようにしていて、バイトだってできなかったため、金銭面はどうにもできなかった。安いものとかあげたって黄瀬は「嬉しいッス」「ありがと」「大切にするッスよ」と笑って、本当に大切にしていることも知っているが、それだけでは青峰は焦燥感を捨てきれなかった。

「ずっと一緒ッスね、これで」
「そんなもんでいいわけ」
「もっと高いものもくれたりするわけ。期待してるッスよ、ルーキーさん」

そう言って黄瀬は、笑った。青峰は苦笑して、分かったよ、と言って黄瀬にもう一度抱きついた。首に回された黄瀬の手が時々触れる時に冷たいのは、青峰があげた時計がふれているから。些細な変化に青峰は嬉しくなって、仄かに笑う。
歳は同じになった、働くことになった、それでも黄瀬が遠いように思う。いつも追いかけているのは自分だと、黄瀬は悔しそうにするが、それは違うと青峰は思っている。多分、二人は円の上をぐるぐると巡っている、ちゃんと出会えるのはいつになるのか分からない。恐らく出会うことができて、ちゃんと隣にいれるようになるためには長い時間がかかるはずだ。「だから、一生傍に居ろよ」そう耳元で本当に小さく囁けば、黄瀬は聞こえなかったのか、ん、と言って青峰の顔を見る。こっちの話、そういって青峰は黄瀬をさらに深く抱きしめる。


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