テキスト | ナノ
いつの間にか、暇があれば自然と会うような、そんな関係に二人はなっていた。家にまで来て一緒にNBAのDVDを見たり、そのまま泊まっていったり。外に出かけるのは二人では目立つから、町の中を歩くよりは店の中に入って話したり物をみたりすることが多かった。
青峰がバッシュが欲しいと言ったので、黄瀬も付き合いで行くことになった。店に行く途中「きぃ」と青峰に呼ばれて黄瀬は一瞬誰の事だろうときょろきょろと周りを見た。もしかして昔の彼女さんとか女友達を発見したのだろうかと、そう思ったが青峰が見ていたのは黄瀬だった。クエスチョンマークを浮かべながら青峰を見返せば「きぃって外では呼んでいいか?キセリョとか黄瀬とか言ったら周りにバレたりして面倒だし」そう青峰が言ってきて、一瞬理解できず黄瀬はぽかんとしていたがすぐに「うん、うん、良いッスよ。じゃあさ、俺もなんか青峰っちのこと別のやつで外では呼びたい」と言えば、青峰も快くうなずいた。色々と変な候補も出てきたが、やはり妥当な大輝、だいくん、その二つが残された。

「どっちが良いッスか?」
「だいくんとか女子かよ」
「かわいくないッスか、だいくんとか」

黄瀬はそう言ったから、他の男にそんな呼び方されたら殴ってしまうかもしれないが、黄瀬にそういわれて悪い気はしなかった。結局、だいくん、と黄瀬は呼んだ。なんだか、カレカノみたいッスね、と言った黄瀬に、そうだな、って返せば一瞬空白の時間ができる。どうしたのかと黄瀬を見れば、また少し頬を染めて唇を噛んでいた。青峰はその時に、あー黄瀬は俺のことが好きなんだな、と思った。だけど、何も言わなかった。
「きぃはさ、今日何か靴買うのか?」と青峰から話題を振れば「そうっすね、良いのがあれば買いたいなって思ってお金は余分に持ってきてるッス」と少し詰まったが言葉を黄瀬は返してきた。それから、普通に会話をするようになるが、黄瀬が若干いつもよりも明るくなっている気がした。

きぃ、だいくん。そうやって外では悪戯のように呼び合うようになってしばらくして、黄瀬の誕生日が近づいてきた。メールで何が良いかと青峰が聞けば、一緒に祝ってほしい、とだけ帰ってきた。スケジュールを見れば、なんとか暇があるので承諾のメールを返せば、黄瀬の嬉しさが全面に表れているような文面とはしゃいでいる顔文字。そんなメールに、喜びすぎだろ、と苦笑しながらも青峰はサプライズで何かを買って行ってやろうと考える。
何回か着たことのある黄瀬の家のインターフォンを押せば、十秒後くらいに玄関が開けられる。少しだけラフな服装の黄瀬が開かれた隙間から顔をのぞかせて、青峰の姿を確認するとへらりと柔らかく微笑んだ。その姿に青峰は一瞬どきりとまた胸が大きく鳴ったが「誕生日おめでとさん」そう言った。
黄瀬は青峰を自宅に引き入れる。白と黒と青を基調とした部屋に、青峰のポスターが貼ってあったりして、入るたびにちょっと気まずくなる。そのポスターからすぐさま視線を外して、青峰は手に持っていたケーキの入っている紙の箱を手渡した。

「ケーキ買ってきてくれたんスか、嬉しいなあ」
「ホールじゃねえから。お前ひとりで食べきれないだろ」
「青峰っちは食べないんスか?」
「俺は甘いの苦手」

青峰がそう言えば、知ってるッスよ、と言って黄瀬は笑った。雑誌のインタビューで見たこともあるし、一緒にいて青峰が甘いものをあまり食べないことも黄瀬は知っている。
なんだか、黄瀬は俺のことが好きなんだよな、と思うとその笑顔がこそばゆくて、なんだか居た堪れなくて、空気を換えようと青峰はポケットからもう一つのプレゼントを手渡した。茶色い小さな紙袋だったが、黄瀬はこれまた嬉しそうに受け取って、蒼いセロハンテープを剥がしていく。中からころんと黄瀬の掌に転がったのは、蒼いフープピアス。誕生日で、何も渡さないのはいつも会っているのに薄情だと思い、日ごろの感謝の気持ちを兼ねて青峰はそれを買った。黄瀬は人差し指と親指で摘みあげると「ありがと」と言った、その声は少し揺れていて、瞳も少し潤んでいて泣きそうだと分かった。泣きそう、黄瀬もそういって笑った。ずっと大切に着けるから、とも言った。
ごはん、作ってるッス。それで、俺二十歳になったからお酒も買ってみたんだけど、青峰っちはまだ二十歳じゃないからジュースね。黄瀬は涙を必死にこらえると、そう青峰に言ってから逃げるようにキッチンに向かっていった。出されたメニューは、黄瀬の好きなものじゃなくて青峰の好物ばかりで、青峰は黄瀬を思わず見てしまった。

「お前って本当に俺のこと好きだよな」

会話も弾み、黄瀬は初めてのビールも飲んでいた。青峰は思い出したように昔言った言葉を繰り返した。「お前、恋人とかいねえの。こーゆー日って、彼女とかに祝ってもらうんじゃね」そう言えば黄瀬は笑いながら言った。黄瀬はすっかり酔っぱらっているのか、さっきみたいに頬を少し赤くして瞳を潤ませていた。「彼女はいないッスよ、だって青峰っち大好きだし。スタッフさんとかモデル友達も祝ってくれるって言ったんスけど、あんたが祝ってくれるっていうから、全部断って来たんスよ」そういって黄瀬はテレを隠すようにビールを口にした。
好き、好き、好き。今ならお酒の勢いで言えて、青峰も流してくれるかもしれない。黄瀬はお酒で少しだけ明るくなった思考でそう考えた。

「青峰っち、好きなんス。本当に好きなんだよ、あんたのこと」

そう黄瀬は言った。うまく冗談を言うみたいに笑えているのか自分ではわからなかった。青峰は黄瀬の言葉を本音だと分かっていたが、冗談で黄瀬が言っているのだろうと思って軽い口調で返す。

「冗談言うなよ、お前男だろ、ありえねえって」

そう笑いながら青峰は言った。黄瀬は「そうだよねー」と明るい口調で返してきた、それを青峰はテレビから視線を外してみれば、黄瀬の瞳からは涙がとめどなく流れていた。「黄瀬?」と声をかければ「何ッスか」と黄瀬は泣いていることに気が付いていないのか、青峰を不思議そうに見た。泣いてる、と伝えれば、黄瀬は驚いたように手を目元に持っていく、そして濡れた皮膚を確認すると慌てたように「どうしたんスかね、ごめんね、何でもないから」と言葉を噤んだ。しかし、涙は止まらない。白く細長い指で、次から次へと流れる涙を拭い、黄瀬は必死に涙を抑えようとしたが逆に涙は止まらず、少し声にも嗚咽が混ざってきた。
分かっていたのに、冗談でも言われてしまって傷ついたのだ、黄瀬は。冗談でも言わないで、ずっと少しの好きになってくれるかもしれないという可能性を信じて友達でいればよかった。そう思っても既に遅い。そう思えば、溢れる思いが止まらなかった。

「ごめん、勝手に傷ついてるだけだから、青峰っちは悪くないんスよ。ただ、きぃって特別に呼んでくれたり、こうやってピアスくれたり、そんな小っちゃいことに、俺のこと好きだと思ってくれたりしてないかな、って思ってた俺がいけないんスよ。男なのに、ありえないのに、ごめんね。気持ち悪いこと言ってごめん、次会う時はちゃんとこんな気持ち忘れるから」

だから今日は帰って。そう嗚咽交じりに黄瀬は青峰に言った。泣きながらそう言った黄瀬に青峰は言葉をかけることもできずに、黄瀬の家を出た。
2時間後くらい後になって黄瀬から「今日はごめん、忘れて良いから」それだけがそっぽ無く書かれ、いつもの顔文字も何もなくただ黒の文字だけが淡々と並んでいた。急いで「忘れねえから、別に気にしてない。また今度会おうな」とだけすぐに返信をしたが、黄瀬からの返信は来なかった。



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