テキスト | ナノ
※二人とも19歳
※プロ選手と芸能人で初対面


土曜日で休日であり人ごみがごった返す街中を一人歩く、周りはざわつくが話しかけてくる様子はなかった。プロバスケットボールプレーヤーに青峰がなって1年と少しが経過していた。青峰は将来NBA入りが確実であると有望視され、国内でもバスケの話題がテレビや雑誌で取り上げられることが多くなり、大概の人ならば彼の名前を知っている。知らなくとも彼の容姿は目立つ、高い身長、無駄なくついている筋肉、整っている顔立ち、ただほんの少し目つきが悪いその風貌からファンであっても声をかける者は少なかった。
ざわつきはあるものの、それも気にならなくなった。久々のオフは普通ならば誰のお咎めもない自由自堕落な独り身生活で、家の中でごろごろと借りてきたDVDでも見たりして暇をつぶすのが、青峰の過ごし方だった。だが、そのDVDの返却が今日までで、別に延滞料金くらいならば財布に痛くもかゆくもないが、どうせ暇なのだからDVDを返しに行ってどっかで飯でも食って店でも見て回るか、となんとなしに思い立ってこうやって街中をぶらついていた。
一応食生活に気を遣ってはいるが、食べれれば何でも良い。そう思って丁度目に入ったマジバーガーに足を運ぼうとした青峰の後ろから「青峰選手ですよね」という声が聞こえた。声をかけられることは先ほども述べたのように滅多になく少し驚きながらも振り返れば、そこにいたのは自分よりも少しだけ小柄な若い男だった。パッと見、自分と同じくらいの年齢だろうということが分かる、金髪に黒い帽子をかぶっていた、瞳はサングラスで隠されていて見えない。

「あー、そうだけど。何、ファンなの?」
「そうッス、プライベートなのにごめんなさい。あ、えっと、ちょっと待って」

何か無かったけなあ、と言いながら目の前の男は高そうな紺のバックを漁り始めた。青峰はまだ気が付いていなかったが、声をかけたのは黄瀬という男だ。モデル出身の若手俳優で人気がある。そんな黄瀬はそんな芸能人らしき雰囲気を一切出さずに慌てながら鞄の中をかき回していたが、お目当ての物が見つからなくて強張った表情で顔を上げて青峰の顔を見た。何かを言おうと黄瀬が口を開こうとしたとき、通り過ぎようとしていた女子高生のグループの一人が黄瀬と青峰を指さして大き目の声で「あれって、キセリョと青峰選手じゃない?」と。その声は周りにも聞こえたらしく、ざわざわとしていた群集の会話の中に、キセリョがいるらしいーよ、青峰さんもだって、どこどこ、などという声が広がっていった。その時、青峰はようやく目の前の綺麗な男が黄瀬涼太だと分かった。黄瀬は慌てたらしく、青峰の腕をつかんで速足に歩き始めた。訳も分からずに連れて行かれるままに青峰は黄瀬を追って足を動かした。
ようやく人ごみを撒いた二人は、街から少し裏道にあるカフェに入った。その店を青峰は知らなかったが、黄瀬に連れていかれるままに店内に座って、いつの間にかコーヒーを注文していた。

「あー、急に連れてきてすみませんッス。テンパっちゃって思わず腕引いてしまって、ほんとうにすみません」
「や、別に良いって。てか、お前キセリョだったんだな」

注文したコーヒーを受け取って、ひと段落ついた時に黄瀬から話し始めた。青峰がそう言えば、黄瀬は、俺のこと知ってくれてるんですね、と言ってから嬉しそうに笑ってサングラスを取った。黒いサングラスの奥から、金色の瞳が現れる。綺麗な男だと思っていたが、サングラスを取ってまじまじと見ると本当に整った顔だと、青峰は感嘆した。「知っててくれるとは思ってなかったから、嬉しいッス」そう黄瀬は言うが、黄瀬は人気モデルであり、暇つぶしでよくドラマを見ることも多い青峰はよく彼のことを紙面でもテレビでも見ることがある。そう言ってから黄瀬はまたサングラスをかけ直した、別に店内に人影はまばらだから気を遣わなくても良いと青峰は思ったが、何も言わないで「俺の方こそ、キセリョが俺のファンだと思わなかったっての」そう言って笑えば黄瀬は説明するようにゆっくりと話し始めた。

「俺、バスケしてたんスよ。神奈川の海常って結構有名だし、青峰さんの桐皇とも当たったことあって、そこでファンになってずっと追っかけてる」
「海常?確かにやったことあるけど、お前みたいなキレーなやついたら覚えてると思うんだけどな」
「あー、俺一応エースだったんスけど、オーバーワークして足壊したんスよ。けどバスケ好きってか、青峰さんのバスケが好きだし試合近くで見たかったから試合は出れないけどベンチで応援とかしてて」

今でも忘れない、ボールがまるで彼の体のように動き回り、楽しそうにコートをかけ回る青峰の姿に黄瀬は一目惚れをした。そんなことを見知らぬ、まあ顔は知っているだろうけれど初対面である男に言われても気持ち悪いだけだろうと、憧れたのだ、という話にして黄瀬は話した。あんな風になりたいと近づきたい、試合ができればいい、そう思って練習しすぎた結果がオーバーワークで故障。元エースだということを使って、交代で試合にも出れないのにベンチに座って、桐皇と試合をする時は青峰のことを視線で追っていた。プロになっても気持ちは変わらず、ずっとファンで試合にもこっそりと見に行っている。
そんなことを掻い摘んで話していたが思い出したかのように、それでサイン欲しかったんスけど、ペンとか何か書いてもらえるものとか持ってなくて、そういって黄瀬は少し頭を垂れて肩を落とした。
分かり易い男だと、青峰は黄瀬の話を聞きながら思った。バスケや青峰の話をするときは嬉々とした表情を見せ、自分に落ち度があれば泣きそうな表情になり肩を落とす。テレビで見る黄瀬涼太という人物はもう少し大人びていて、同じ年だとは思えなかった。だが目の前の黄瀬が本来の黄瀬なのか、ただの19歳に見える。

「じゃあさ、今度なんかサイン書いてほしいものとか持って来いよ、書いてやるから。俺もキセリョのファンってかまあ一応好きだし、サイン貰っていいか?」
「いいんスか。嬉しいってかありがたいです。勿論良いッスよ」

肩を落としていた黄瀬は顔を上げて破顔した。その表情はテレビや紙面でみるような大人びたものではなく、ただ甘いだけの表情。それに一瞬青峰はどきりとした、まさかそんな表情をされるとは思っていなかった。自分の感情に驚いている青峰を置いて、黄瀬はまた鞄を探し始め、それからおずおずと自分の青いスマートフォンを取り出した。スマホが青いのは青峰の名前にその色が入っていて、思わず買ってしまったからだ。
何だろうかと、その差し出されるスマートフォンを青峰が見ていると黄瀬はえっと、そのー、とか言葉を濁し、青峰が自分のそれを差し出さないことから意味に気が付いていないのだと分かり、意を決して口を開いた。「あの、メアドとか聞いていいですか・・・や、その今度サイン貰う時の連絡とかするだけで、迷惑メールとかしないし」と黄瀬が言ってから青峰は差し出されたそれの意味が分かり、慌てて尻ポケットから自分のスマートフォンを取り出した。

「いいんですか」
「じゃねえと次会う時困んだろ。ってか、無理り敬語使うなよ、同じ年だし。あと青峰さんってのも良いから、俺キセリョって言ってるのに他人行儀過ぎだろ。メールも送りたければ送っていいから」

そういって、メアドを送りあう。黄瀬は戸惑っていたが「じゃあ、青峰っちって呼ぶッス」とまだ不安そうにした表情だったが笑ってそう言った。よく笑うやつだな、青峰はそう思って笑いながらそう述べれば、黄瀬は少しだけ上ずった声で、そんなに笑ってるッスかね、と言った。
そう自分で言ったが、確かに笑っている自覚はある。ずっと憧れて好きだった人と話せて、しかもメアドまで分かって、普通に話しているのだ。にやけない人間の方が少ない。今にも、ずっと好きだったんス、って言ってしまいそうだと黄瀬は気持ちを引き締めた。この機会に友達になれたらいいな、そう思えるだけで十分だ。
そう思いながら登録された青峰のメールアドレスを眺めていれば、ふと画面に表示された時間が目に付いた。「あ、やっば。ごめん、俺これから仕事だったの忘れてた。えっと、また今度また、えっと」そう慌てる黄瀬に青峰は「分かったって、メールするからまた今度な。仕事ってドラマ?」と返せば、頷いて「見てね、俺キレーッスよ」と黄瀬は笑ってから鞄を持ち上げて席を立った。
じゃあ、また今度。黄瀬はそう言って席を立ちあがると、手を振ってからもう一度時間を確認すると慌てた様子で背を向けた。その黄瀬の様子を見送った後、そういえば結局サングラスを外したのは一瞬だったな、と思い出す。それから、その一瞬で見えた澄んだ金色の瞳を思い出す、思い出してからドキッとしたのは気のせいだろう。青峰はそう思って慌てて残ったコーヒーを飲んだ、それは思ったよりもまだ温かさを保っていた。

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