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※キセキの世代はいるけれどごたごたはしてない世界


初め、二人の関係は秘密だった、それこそ常に一緒にいたバスケ部のメンバーにも。初めは気が付かなかっただろうが、ただなんとなくだろうが皆感は良いので気づいていただろうが、二人の気持ちを組んでくれたのか二人が言い出すまでは何も言ってこなかった。
黄瀬にとっての初めての全国制覇が終わった頃だった、黄瀬から提案してきたのだ。好き、恋人になってほしい、と。青峰はその時点では黄瀬に対してそのような感情を抱いていなかったので驚いたが黄瀬の表情があまりにも真剣だったから、馬鹿じゃねえの、お前男だろ、などの言葉を発せずに一瞬ひるんでしまった。その一瞬に付け入るように黄瀬は言葉を続けた。何もしなくていいッス、別にキスとかそーいうことも望まないし、別に彼女作っても何も言わないッス、メールだってそんな内容のは送らないし、デートとかしたいとかも言わないから。

「だから付き合って欲しい」

そういう黄瀬の表情はあまりにも真剣だった。真っ直ぐに青峰の瞳を捕らえていた。青峰からしたら、それを聞いて「どこが付き合ていることになるんだ」と思ったが、それでいいなら、と頷いた。後で聞いた話だが、付き合っているという事実だけあれば幸せだったらしいが、話を聞いたあとでも黄瀬のやりたいことが青峰にはわからなかった。ただ、部活で気まずくなるのも避けたかったのと、恋人らしくしないで良いならそれでいいか、とそんな気持ちだけだった・
だから、初めは部活のメンバーも二人が付き合っているということに気が付かなかった。

それから黄瀬は少しだけ青峰のそばにいることが増えた。本当に少しのことだったのと、もとから黄瀬は青峰の傍にいることが多かったので青峰は気になることはなかった。告白した、されたがあった後だから気まずくなるかと思ったが、ねえ青峰っち、そう笑いかけられるのが少しだけこそばゆく思うようになっただけだった。
部活の帰りも今までと同じところで別れていて、恋人がするような家まで送ることはなかった。ただ、じゃあね青峰っち、と名指しで最後に言ってから薄く笑ってから黄瀬は控えめに手を振るのだ。最初は何もしなかったが、いつのまにか青峰も、おう、とだけ言って手を一二回振りかえすようになった。
メールも、おやすみ、おはようメールが来ることはなかったし、デートの誘いらしいメールもなかった。ただ、時折「今何してるんスか?」とメールが着ては「飯食ってる」「お前のメールで起きた」「ストバス行ってるとちゅー」とかくだらないメールを一度だけ返すだけで黄瀬からも「邪魔して悪かったッス、また明日!」とか言ってメールはすぐに終わった。それも、途中からくだらないメールのやりとりをするようになった。
デートと言うデートもしなかった、最初はストバスに誘ってバスケをしているだけだったが、それも友人時代からしていることなので変わりなかった。ただ、黄瀬がストバスの途中で「これから映画行くから、今日は先に帰る」と言った映画が青峰も見たかったもので、一緒についていって映画を見たり、そんな感じで黄瀬が「青峰っちの好きそうな店見つけたんスよ」とか言ったのに興味を持って、一緒に服を買いに行ったり飯を食いに行くこともでてきた。
そうやって、少しずつ少しずつ二人は恋人らしくなっていった。だけど、あくまで「らしく」であって「恋人」ではなかった。手をつなぐこともキスもそれ以上のこともしない。



黄瀬の部屋に青峰が行くことになった、きっかけは適当なものだった。ただ、メールの流れで部屋の話になって、お前の部屋どんな感じ、と送ったら、来る?、とだけ帰ってきた。だから行った、それだけだった。
黄瀬の部屋はきれいだった、無駄なものが無くてシンプルだったがセンスがあるものばかりだった。「なんか持ってくるから自由にしてて、探してもエロ本は無いから」そういって黄瀬はいったん部屋を出て行った。手持無沙汰になり、ふと目をなんとなく本棚に向ければ、本棚にはバスケ雑誌が一冊ずつ並んでいたが、一つだけ二冊あるものがあった。青峰たちキセキの世代が特殊されているものだ。
ジュースとポテトチップスなどのお菓子類を持ってきた黄瀬に「なんでこれだけ二冊あんの?」と尋ねれば「あんたが載ってるから」と言って黄瀬はきれいに笑った。綺麗だった、部活中にふざけて笑うような笑顔をかわいいというならば、静かに笑う笑顔は綺麗だった、いつぞやに見たモデルをしているときの笑顔とも違った。

「それって、俺が好きだからってことか?」
「そーッスよ、あんたが好きだから、同じ店で二冊買うのは恥ずかしくて別の店にまで行って買ってきた」

雑誌を手に取ると黄瀬はとあるページを開いた、ご丁寧に付箋まで貼ってあった。青峰がインタビューされているページが右で、左にはプレー中の写真が貼ってあった。その一枚を指さして黄瀬は言った。「俺、この写真がすっげー好き、青峰っちチョーかっけーって毎回思うんスよ」と、相手をかわしながらフォームレスシュートを決めているところだった。正直、自分のことをかっこいいと言われているので青峰は、そうだな、とも言えずに黙って嬉々としている黄瀬を盗み見た。その表情は明るくて、綺麗だった。語彙が少ない青峰にはそうとしか言えなかった。黄瀬は綺麗だ。
青峰の視線に気が付いたのか、黄瀬が顔を上げた。薄い唇を動かす、あおみねっち。そう動いた、それが酷く美しかった。思わず、触れるだけのキスをした。

「あんた、何してんスか・・・」
「恋人だろ、キスしてわりぃかよ」

黄瀬は黙ったままだった。居心地が悪くて青峰は目線を下に向けた。濃い藍色のカーペットが視界に入る。そういえばあんまり気にしていなかったが、黄瀬の部屋には青色系統の雑貨や小物が多い気がした。意識すれば次第にさらに意識してしまう、部屋は黄瀬と同じやわらかい甘い匂いがした。それを、愛しいと思った。気が付かないふりをしていただけで本当は前からこの男を愛おしいと思っていたのかもしれない、この雰囲気に流された思い込みかもしれないが、確かに青峰はそう思った。部活中に青峰っちと何度も呼ぶ声と、振り向けばいつも笑顔があること、あんたのバスケが好きなんスよ、と言ってずっと見ていた黄瀬。気が付けば自分のテリトリーにすんなりと収まっていて、隣にいるのが当たり前だった。いつだったか、幼馴染が言っていた。「恋するきっかけって、顔とかもあるだろうけれど、最終的には案外距離感が近い人なんだって」彼女はそういって黒子の傍にいるようにしていた。ワザとなのか偶然なのかわからないが、ワザとならば青峰はまんまと黄瀬の罠に嵌っていた。しかしそれはきっかけであり過程であり、結果にはならない。黄瀬を選んだのは間違いなく青峰の意思だ。
顔を上げれば黄瀬が顔を下に向けていた。黄瀬、と青峰は名前を呼んだ。「お前が好きだ」と言えば黄瀬は驚いたように身体を硬直させて、それからおそるおそる顔を上げた。

「冗談はやめろよ」
「冗談じゃねえよ、好きでもねえのに野郎とキスできるか」
「…信じてもいいッスか」

黄瀬の声は揺れていた。怖かったのだ、黄瀬は。思わず溢れてしまった気持ちを伝えてしまい、後にも引けず、予防線に予防線を張って、嫌われないように嫌われないようにと、いつ否定的な嫌悪感を含む言葉で拒絶されることが訪れないように必死に仮にも恋人でありながらも友達のふりを続けていた。
それなのに彼はやさしかった、否、段々と優しくなっていったから尚更怖かった。昔よりも隣にいるようになって、よく話すようになって、手を振りかえしてくれるようになって、メールをするようになって、一緒に出掛けるようになって、それだけで幸せになれたのにまた昔みたいになってしまうのが辛かった。
黄瀬の世界は青峰大輝でできているようなものだった、彼とバスケ、それだけで構成されていると言えた。息をするように彼の存在が必要だった、だから傍にいるだけで幸せだったのに高望みをしてしまった。そう思っていた。
だが、青峰は黄瀬に、好きだ、と告げた。問い返せば、笑ってから「好きだって言ってんだろ」と言った。

「目、閉じろよ。もう一回、キスしよーぜ」

黄瀬は目を閉じた、唇に温かい感覚がした。数秒経って唇が離れてから、黄瀬は目を開けた。少しだけ青峰も頬を赤くしていて、ああこの人も自分が好きなんだ、と分かってから嬉しくて黄瀬は微笑んだ。
それからベットに二人で腰かけて話をした、不思議と気まずくはなかった。どうして青峰が好きなのかを黄瀬は話した。「ずっとね、ずっと、生きるのが面白くなかったんスよ。だけどね、あんたがボールぶつけてくれてね、バスケに出会ってね生きるのが楽しくて仕方がないッスよ。ずっとバスケしてたらずっとあんたが傍にいるんスよ、無意識であんたの傍にいたのかもしんないし深層心理であんたの傍を選んでいたのかもしんないんスけど、とりあえずあんたが傍にいて、ずっと見てたらやっぱりかっこよくて、男なのに好きになってた」そういって黄瀬はまた微笑んだ。照れくさくて青峰は、ふーん、と言葉を返した。そんなおざなりな返事でも黄瀬は嬉しそうに笑った。
次の日初めて、黄瀬を家まで送り届けた。じゃあね、青峰っち。そういう黄瀬は本当に明るかった、そして綺麗だった。キスしたかったけれどさすがに家の前だったのと黄瀬がモデルだということを思い出して我慢した。もう一つの初めては、おやすみメールが黄瀬から初めて届いたことだった。





それから少しだけ二人の関係は変わった。青峰は黄瀬の隣を自分から選んで取ったし、帰りも黄瀬の家まで送った、くだらないメールにも付き合って、たまに自分からも送った、デートはストバス以外にもいろいろなところへ行った。だけど、外では何もしない、キスも手をつなぐことも。それを黄瀬は不満そうにしていたが「お前、モデルだろ。ちゃんと自覚しろよ」そう青峰から言われたら押し黙るしかなかった。代わりに家の中では甘やかしてくれたし甘えてきた。意味もなくテレビを見るときに手を重ねてみるのは癖になっていたし、ソファーにすわるときにはよりかかってくるし寄り掛かる。キスだってした、エッチなこともした。二人だけがそのことを知っていた。
高校を卒業するとき、やっとみんなに話した。キセキの世代と仲良くなっていた火神と高尾に。気持ち悪がられるかと思ったが、案外あっさりとした反応だった。「お前らが良いなら良いんじゃねえの」まとめるならばそんな一言。
高校を卒業と同時に、黄瀬は芸能活動に、青峰はバスケの世界に入った。お互いに一人暮らしを始めて合鍵も持っていたが、一緒に暮らしてはいなかった。「バレたら困んだろ」青峰がそういって譲らなかった。それを黄瀬は、自分と付き合うのが後ろめたいのだと感じとって、初めて喧嘩した。「お前が傷つくのは嫌だし、バッシングされて別れたくねえんだよ」そう青峰が言った言葉に、黄瀬は縋るしかなかった。
そうやって2年が過ぎたときに、青峰にアメリカの下部リーグからスカウトの話がきた。

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