テキスト | ナノ
お疲れ様でした、とカメラマンが言った声を聴いたのは10時を15分くらい過ぎた後だった。お疲れ様ッス、とだけ黄瀬は言って慌ててて着ていた服を脱いで、来る時に着ていた私服に着替える。割とラフな白のシャツに黒のジャケットを上に着て、下にスキニーを履く、それから黒の靴に履きかえて紐を結びなおそうとして携帯を取り出す。携帯を取り出すが、彼からのメールは一通だけで、下で待ってる、とだけ書いてあった。黄瀬はその文面を見ると慌てて靴紐を結び始める。急いでいるからかうまく結べなくてもどかしいくておざなりに結んだからか少し形がいびつな結び方になってしまった。それから黒のコートを上から羽織ると階段を駆け足で降りていく。先に着替えて降りて行っていた先輩たちの声が下から反響して聞こえる、「黄瀬ー、もう彼氏来てるぞ」と。「彼氏じゃないッスよ」と反論をしたが、先輩たちは笑うだけだ。彼等は二人の関係を知っているわけではないが、よく送り迎えをする二人を恋人だとしてからかった。
外に出れば、少し離れたところに黒い大型バイクが置かれている。それに跨るように座っている男に黄瀬は駆け寄った。

「ごめん、待たせた」
「ん、別に少しだし、気にすんなよ」

そう青峰は言うと、黄瀬の頭をぽんぽんと軽く撫でて、持っていた黄瀬用のヘルメットを手渡した。黒いヘルメットに青いデザイン的な線が描かれているものだ。青峰はその線の色が黄色のものをかぶっている。
ヘルメットをかぶっているせいで顔が見えないのが物足りない。今すぐ顔を見てチューしたい、なんて思っていると、青峰もそう思ったのかわからないがヘルメットを取ってくれる。何年も一緒にいるからか黄瀬のことを青峰はだいたいわかるようになった、黄瀬の目は正直で熱っぽくなって水分も多くじっと青峰の唇を見ていた。目閉じろ、と言えば、黄瀬は、人、とだけ返した。誰もいねえよ、と青峰が言った言葉を信じて黄瀬は目を閉じた。黄瀬のことを何よりに考えていると知っているから、彼の名誉を傷つけるような浅はかな行動を青峰はなかなかとらない。こうやって外でキスすることは稀で、きっと本当に人通りはいないはずだ。ゆっくりと視界が真っ暗になって数秒後には唇に温かく柔らかい感覚、だけどほんの短い時間。

「ほら、乗れよ。続きは後でな」
「わかった」

自分のヘルメットをかぶりながら青峰が言った。その言葉に頷いて言葉を返すと黄瀬も受け取ったヘルメットをかぶりなおす。
先ほど述べたように青峰は黄瀬のことを第一に考えていて、黄瀬のことを気づ付けるような浅はかな行動は外ではとらない。手を握りたいと黄瀬が言っても外ではダメだと断るし、キスなんてもっての外で、独占欲が強いくせにキスマークは仕事がある時は付けてくれない。一番最後のは嘘をついてつけさせることがたまにあるのは秘密である。
そんな青峰と黄瀬が人目も気にせずにいちゃつくことができるのはバイクに乗っているときだった。抱きついていても不自然ではないし、会話だって聞こえない。会話は自分たちもたまに聞こえなくなってしまうけれど、それでも話せるだけで幸せなのだ。

「今日はどんなの撮ったんだよ?」

多分あまり興味のない話だろうに、青峰は絶対にこの話をしてくる。気を遣わせているなあ、と思いながらも黄瀬は口を開いた。春物で、薄着のやつ、ジャケットが良い感じだから俺も買おうかなって思った、一緒に撮ってた人のが青峰っちに似合いそうだったッスよ、今度一緒に買い物行こうよ、パーカーとかも着たけど正直俺には似合わない気がしたッス、んでそれでね別の特集みたいなのでデート特集みたいなの撮ったんスよ、そん時あんた思いながら撮ったよ、そしたらいい顔って褒められたッス。そうやって黄瀬は楽しそうに話す。くだらない話に付き合わせていると思っても、服を着るのは好きだし楽しいのでついつい話してしまう。そんな黄瀬の様子を運転している青峰は見えないが、声色で楽しそうだと悟って口元を上げて、楽しそうだな、と言って、今度服買いに行くか、と提案してくる。さっきの買い物に行きたいという言葉で気を使わせたと黄瀬は思って、良いんスか、と少しだけ控えめなトーンで聞いてきたが、デートしようぜ買い物デート、という青峰の声に黄瀬は、嬉しいッスありがと、と返して抱きついた。
黄瀬は気を遣わせていると思っているが、青峰はそうは思っていない。もとよりバスケとグラビアぐらいしか興味のなかったものは、黄瀬のおかげで色々なことを知った。カラオケに付き合ったり、映画を見たり、服を買いに行ったり、ゲームセンターに行ったり、おしゃれな店で何かを食べたり、ただ歩くだけだったり。いろいろなところに黄瀬が行きたいと言えば付き合った。無理をしているつもりはなし、興味を持つことが増えて楽しかった。それに仕事の話を聞くのは色々と心配のなのだ、変な女や男が言い寄ってないか、仕事が辛くないか、そんなあれこれを知るために仕事を話を聞いていた。

「だけど、買い物終わった後はすぐ家に帰りたいッス」
「何でだよ、飯食ったりとかしなくていーのか?」
「最近外ばっかで青峰っちとえっちなこととかあんまりできてないし」

よっきゅーふまん。黄瀬はそういって青峰の胴体に巻きつけていた手を彼の下半身へと伸ばす。少し慌てたが丁度よく赤信号になってバイクを青峰は停止させた。あぶねーだろ、と注意すれば、ちゃんと赤信号になるタイミング狙ったッスもん、と言葉が返ってくる。それでも危ないから急にすんなよ、と注意すれば、わかった、と声が返ってきて背中に頬を摺り寄せてくる感覚がした。これは反省していないな、と思ったが、青峰が外で我慢しているのを知っていて黄瀬は誘惑してくることは日常茶飯事で治るものではないと知っているので、もう一度言うのはやめた。

「明日、お前仕事ねーよな」
「今日頑張ったから無いッスよ」
「だったら、んなこと言えないぐらいやってやるからな」

そう青峰が言えば、後ろから、楽しみにしてる、と言う声が聞こえた。それを合図にしたみたいに赤信号が青に代わる。


とても全部は言葉に出来ないけど/ごめんねママ

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彼氏峰…?次はゲス峰が書きたい
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